カオスに一旗!外食ベンチャーレポート(5)ターリー屋「ターリー屋」「HATTI」

2008.06.02 343号 18面

 本場のインドカレーをワンプレートスタイルでリーズナブルに提供する「ターリー屋」は、新宿と渋谷に4店舗を構える人気カレーチェーンだ。かたや、店内にインドの古都デリーの街並みを再現したユニークなレストラン「HATTI」(ハッティ)を2007年7月に開店。全店のセントラルキッチンとしても活用できる店舗として、従来とは異なるメニューを展開している。社長の吉川浩伸氏は、試食販売の人材派遣業で成功と挫折を経験した後、外食の世界に飛び込んだ。市場を見極め、コンセプトを組み立てる手腕が成功を呼び寄せたのだ。(FOOD Pro-Net取材班)

 現在、日本のインド料理店の90%はインド人オーナーであるという。そうした現状の中、吉川氏の展開するインド料理店「ターリー屋」が繁盛店として成功した理由は何か。それは、料理こそ本場インドで修業した腕利きの料理人をそろえているが、あえて本格的なインド料理の提供スタイルにこだわらず、ビジネス街で需要が大きい“定食屋”として業態コンセプトを確立させた吉川氏のアイデアによるものだ。

 2008年2月には、初めて新宿を離れて、渋谷の公園通りにあるC.C.Lemonホール地下、キッチンクワトロ内に「ターリー屋」をオープンさせた。既存の「ターリー屋」は各店が15坪から25坪で月商500~600万円を稼ぎ出す。これまで、全店で「単月赤字は一度も出ていない」という実績は決してまぐれではない。

 吉川氏は大学を卒業後、食品流通の老舗企業に就職した。配属された高級食品スーパーの店舗で、当時はまだ珍しかったハーブ売り場を担当することになる。そこでは、毎日入荷する生ハーブの大部分が売れ残るという現実に驚きつつも、「目先の売上げに一喜一憂せず、顧客のために日本一の売り場を維持することが、最終的に大きな売上げとなる」という同社の徹底的な顧客至上主義を身に付けた。

 早くから独立を志していた吉川氏は28歳で同社を辞め、食品売り場に試食販売のマネキンを派遣する販促ビジネスで起業する。当時から外食業界に興味はあったが、初期投資が大きくあきらめざるを得なかったという。

 それまで仕事を発注する側にいたからこそ見えるノウハウと、前社でたたき込まれた顧客へのホスピタリティーにより、吉川氏の会社は急速に業績を伸ばし、創業後の10年間で年商は約10億円にまで伸びた。最盛期には70人もの社員が在籍し、大阪にも営業所を構えていたほどだ。

 しかし、その後、時代は大きく変化を迎える。「私が起業したのは、ちょうどアウトソーシングが大きなブームになる時期で、いわばロケットのような急成長のタイミングで参入したということなのでしょう」と、吉川氏は当時を振り返る。売上げは急激にダウンし、優秀な社員が離れていったことで再建も困難となった。やむなく負債を整理し、事業転換による再起に全力を尽くした。そして最後に残った手持ち資金で勝負したのが、今から5年前にオープンさせた「ターリー屋」だったのだ。

 これまで販促ビジネスで培ってきた独自のマーケティング理論に基づき、成功を確信できる業態コンセプトを作り上げた。インド料理は多くの人手を必要とせず、こだわり方さえ間違えなければ、意外にも競合が少ない。カレーとナン、ライス、漬け物、ヨーグルトをセットにした定食を、1000円前後のリーズナブルな価格で提供する「ターリー屋」の1号店は、開店前から行列ができた。

 昨年出店したレストラン業態の「HATTI」は、これまでとは違った本格的なインド料理のスタイルを打ち出した。同店はインド料理のテーマレストランとして本場の雰囲気を味わいたい人々に人気を呼び、メディアにも数多く取り上げられた。今年は「ターリー屋」業態のフランチャイズ募集も開始し、吉川氏の手腕がさらに試される年になることだろう。

 ◆ほとんどの料理人が北インド出身

 各店のカレーはすべて、セントラルキッチンを兼ねた「HATTI」で作られる。同社には北インド出身のシェフが多く、カレーもバターと生クリームを使った濃厚なカレーが充実。食材や香辛料は、時期や価格に応じて数社から最良のものを厳選して仕入れており、価格に比較してもインド料理としての完成度は高くリピーターも多い。この店では新メニューの開発も行っており、この冬、予約客の9割が注文したという人気の「インドカレー鍋」も、吉川氏とインド人シェフのアイデアから誕生した。和風のカレー鍋とは違い、オクラ、ナス、鶏、マトンなどインド料理に欠かせない食材を使うのが特徴。シェフが客席で、ニンニク、ショウガ、クミンシードを油で炒めるところから始まり、最後の雑炊まで調理してくれるというスタイルが人気の秘密だ。

 ◆店舗概要

 「ターリー屋本店」/所在地=新宿区西新宿8-5-4 STビル1F/営業時間=午前11時半~午後10時半、無休

 「HATTI」/所在地=本社と同じ/営業時間=午前11時半~午前0時、日祝定休

 ◆企業概要

 会社名=(株)ターリー屋/ストアブランド=「ターリー屋」「HATTI」/代表取締役=吉川(きっかわ)浩伸/本社所在地=東京都新宿区西新宿7-5-5 プラザ西新宿1F/創業=1989年11月/店舗数=5店

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