海外通信 外食ビジネスの新発想(86)NY郊外に佇むFoodieの聖地

2025.03.03 553号 13面
ランチトレーの一例。ズッキーニの花や丸ごと使う野菜など農場ならではのアイデア

ランチトレーの一例。ズッキーニの花や丸ごと使う野菜など農場ならではのアイデア

ランチトレーは学食のようにトレーを持って並ぶ。

ランチトレーは学食のようにトレーを持って並ぶ。

カフェテリアに入ってすぐに目に入るコミュニティー・テーブル

カフェテリアに入ってすぐに目に入るコミュニティー・テーブル

スクランブルエッグ、野菜のフムス、ピクルスなど色鮮やかなランチプレートの品々

スクランブルエッグ、野菜のフムス、ピクルスなど色鮮やかなランチプレートの品々

一部盛り付けは席で。家庭的なサービスが親しみやすい

一部盛り付けは席で。家庭的なサービスが親しみやすい

ディナーの盛り付けは席のすぐ近くで行うライブ感が楽しい

ディナーの盛り付けは席のすぐ近くで行うライブ感が楽しい

カフェテリアのカウンターに並ぶワラビ、はくれいカブなど珍しい食材のサンプル

カフェテリアのカウンターに並ぶワラビ、はくれいカブなど珍しい食材のサンプル

隣の人とも話したくなる距離の近さがホームパーティーに呼ばれたかのよう

隣の人とも話したくなる距離の近さがホームパーティーに呼ばれたかのよう

 ●農場らしいアイデアのランチトレー

 マンハッタンから車で45分ほど北上したNY州ウエストチェスター群の丘陵地に、かつてはロックフェラー一族が所有していた大農園を改装した農場兼研究施設「ストーンバーンズ・センター・フォー・フード・アンド・アグリカルチャー」がある。

 施設内にはミシュラン二つ星などを獲得した最高級レストラン「ブルー・ヒル」がストーンバーンズ・センターと連携する形で運営。提供される398~448$のテイスティングメニューはシェフの見立てで当日組み立てられる。農場内で収穫された食材で作られ、ファーム・トゥー・テーブルの代表となっている。近年のアメリカ人のヘルシー志向、オーガニックや産地への関心の高さから、高級レストランでありながら常に予約は1ヵ月待ちだ。10~12コース提供されるうちの1コースはキッチン内に用意されたスタンディングバーで料理人から直接手渡されたり、コースの途中で施設内の農地見学のサプライズが用意されているのも人気の要因だ。

 とはいえ最大12コース、料金だけでなく滞在時間も長い。気軽に楽しみたいというフーディー(食通、グルメ)を引き付けている要因は他にもちりばめられている。「ブルー・ヒル」レストランの隣には施設内で収穫された新鮮な卵やハチミツ、ハーブティー、焼き菓子やレストランで使用する食器類まで販売するマーケット、そしてレストランと同じチームが手掛ける気軽に立ち寄れるカフェ「ブルー・ヒル・カフェテリア」がある。2021年にリニューアルオープンした。

 カフェに足を踏み入れるとまず目につくのは一つの長いテーブル、「コミュニティー・テーブル」。コロナ禍を経て人と一緒に食事をする楽しさの再認識を提案している。レストラン同様、メニューはなく、日々の収穫を見て組み立てられる3コースの夕食は要予約で行くまで内容は明かされない。週3~4回開催、125$、ワイン、ビール、ノンアルコールのマッチング付き。食材の品質や新鮮さはレストラン同様だが一皿一皿のクリエイティブなプレゼンテーションや味付けといったところでレストランとの差別化をしている。

 ランチは学食のカフェテリアのように小皿に盛られたその日の新鮮な野菜や穀物を使用したパン、肉類をトレーにのせていくスタイル。平日42$、週末48$と気軽にブルー・ヒルの味を試せる、と人気だ。室内だけでなく中庭で花壇に囲まれて農場の雰囲気を楽しみながら食事もできる。事前予約によりベジタリアン、グルテンフリーメニューへの変更も可能。

 04年以来「ブルー・ヒル」レストランのオーナーシェフを務めているダン・バーバー氏は農家で育った。野菜の品質は土壌の品質から、とこだわりが強い。ニューヨークの厳しい冬を乗り越えて育った作物が実るのを楽しみに春が来たら真っ先に訪れたいと思わされるカフェテリアだ。

 (井澤歩)

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