対談・カナダビーフの魅力を語る:小野康雄氏・快勝院孝士氏
カナダ政府の統計によると、一〇年前には三〇〇〇tだったカナダビーフ輸入量は、現在その七倍の二万八〇〇〇tに増加した。牛肉の自由化も要因の一つではあるが、カナダビーフ輸出連合会がカナダビーフの魅力を多くのユーザーに伝えてきた努力もまた大きい。一方、八年前に第一ホテルでカナダフェアを催したことがきっかけとなり、以来カナダビーフを使用している同ホテルの快勝院孝士取締役総料理長は、カナダビーフのよき理解者の一人。そんな二人にカナダビーフの魅力や料理法などについて語ってもらった。
小野 快勝院さんが初めてカナダビーフに出合ったのは、いつごろですか。
快勝院 一九六八年ごろでしょうか。カナダのモントリオールで仕事をしていたのでカナダビーフのことは前々から知ってました。向こうでの料理法は大半がプロシェットやステーキ、ローストビーフでしたね。一九七一年に帰国してまもなくUSビーフが日本に入ってきましたが、私としてはカナダビーフ独自の味わいに愛着があったのか、ここ八年ほどカナダフェアを含めて一般メニューにも利用させていただいてます。
小野 ありがとうございます。もともとカナダは伝統的に霜降りのない赤身の肉を好む背景があり、霜降り肉に価値を置く日本人には評判はあまり良くなくて…。しかしそんなニーズを早めにキャッチし、私も提案するなどしてカナダビーフは改良に改良を重ねました。
その結果、一〇年前に比べると輸入量が七倍に増えたんですよ。生産者の方々はずいぶんがんばったと思います。霜降り度最高のトリプルAが全体の二七%しかなかったのが五〇%までになったほどですから。
快勝院 カナダビーフの特徴は、霜降りはないがやわらかく歯切れがよくて食べやすいと思いますが。
‐‐では日本人が好むカナダビーフ料理はどんなものでしょうか。
快勝院 素材を大切にしたローストビーフやステーキですね。岩塩だけでもおいしく食べられますよ。
たとえば赤ワインソースでアレンジするなどそこまでぜいたくする必要は全くないです。焼きっぱなしといったような素朴な料理が合っていると思いますね。
小野 そうですね。デミグラスソースや赤ワインソースを使うケースもありますが、カナダ人が塩・コショウだけで食べるように、肉自体の味を堪能していただきたいです。
快勝院 料理人はどうしてもお客さんにいいソース、いい肉をゴリ押ししがち。でも料理はシンプルが原点、チャコールで焼いた塩味だけで十分おいしい料理もあるんです。
小野 単に焼いただけのたかがステーキですが、されどステーキなんですね。日本人のシェフと一緒にカナダへ行った時のこと。あるレストランでカナダビーフを焼いていただいたんですが、これがカナダのシェフのとは全く味が違ってとてもおいしかったんです。素材を生かすも殺すもシェフ次第だということがわかった経験でした。
‐‐カナダ流のシンプルな食べ方は、ヘルシー志向が追い風になるのでは。
小野 しかし逆に、ニュートラルでクセがないからこそ、ソースになじむビーフと言われたりもします。そんなフレンチの素材として、またステーキとしてシンプルさを生かす料理の二通りあるといえます。
快勝院 素焼きはたくさんガスが入って余分な脂分が落ち、肉のうまみが最も発揮されるものでしょう。日本には焼き鳥、焼き魚の食文化がありますが、これに牛肉を焼くのを加えると日本の食文化の三つの原点かもしれません。炭火焼きがベストですが、コストや安全性の面から残念ながら
ホテルでは少々困難です。
小野 アウトドアでのバーベキューパーティーではいいですけど、ホテル内部ではどうしても鉄板の方が適しますね。
思い出しましたが、カルガリーのステーキハウスでは店の真ん中に囲いをして豪快に炭で焼いてますよ。
快勝院 モントリオールでも、ティーボーンステーキからシャトーブリアン、プロシェットなど大量にガンガン焼いてましたね。
‐‐それをこちらで再現しようという考えは。
快勝院 料理を最初にかんだ時のおいしさの感じ方が、日本人はカナダ人とは大きく違うんですね。だからカナダビーフのカナダ流の食べ方をそのまま持ってきてもこちらではちょっとむずかしいです。
小野 日本人は、おいしさを「やわらかい」ということばで表現しますよね。和食もかたいものはありませんし…。
快勝院 フランス人にしてもかたいフランスパンを平気で食べますし、彼らは多分日本人の倍ほどのかたさを一番おいしく感じるのではないでしょうか。
‐‐カナダビーフの良さは分厚く切れることと聞いてますが。
快勝院 はい。厚いほど肉の中にある肉汁が出て何ともいえない味わいが出るんです。
小野 一人一八〇g相当の肉を来店したお客さんの人数分の塊肉で提供し、あとはその場で自由に切り分けて食べるスタイルでカナダフェアを開催していただいたレストランがあったんですが、期間中三割ほど売上げが伸びたと聞いてます。
五、六人のグループであれば、ステーキの厚みはそれこそ三センチメートルどころじゃない。魅力ですよ。
快勝院 そうすると味わい的にはステーキとローストビーフの中間ですね。
‐‐料理長は、カナダビーフの新しい試みに関心はありますか。
快勝院 料理を楽しむ環境は、部屋の中ばかりではないですね。バーベキューなどそれとは違った食の演出をするのも大切なことかもしれません。
小野 シーンづくりといえば、こんな例があります。沖縄のホテルが、南国そのもののプールサイドにバーベキューの場所を設け、一番上等なカナダビーフの生肉をボンと持ってきてお客さんの要望にこたえ、目の前で食べたいだけ切って焼くというパフォーマンスを行っているんです。臨場感はたっぷり、ずいぶん人気を呼んでいるようですよ。
‐‐ほかにカナダビーフの良さはどんな点ですか。
小野 ヘルシーということを強調させていただくと、まず水がいい。ロッキー山脈の氷河の水ですし、空気もいい。虫もいないので殺虫剤を使わずにすむんですよ。飼料も東はトウモロコシ、西は大麦とこれもいいでしょう。ステーキは和牛よりカナダビーフの方がヘルシーだと思います。
快勝院 それを、表面をかたくせず中まできれいに火を通してジューシーにするのがプロの腕です。
‐‐衛生面、安全面については。
小野 カナダは大変意識が高く、畜産大学と業界が協力して衛生管理マニュアルをつくってます。それと日本のように工場とと殺場が離れていないので、工場内部で外気に触れることなく箱詰めにすることができるため、汚染することも腐ることもありません。
快勝院 自然のままに放牧されていて三年ほど育ててから肉にしてますね。頭に雪を積もらせたまま平然としている牛を見たことがありますよ。牛舎の中で短期間に太らせる和牛とはその点が違うようですね。
第一ホテルでは、一般メニュー、宴会メニューにもカナダビーフを利用させていただいてますが、もっと一般市場に出回り認知されることを期待してます。
小野 どうもありがとうございます。
◆かいしょういん・たかし=一九六一年に第一ホテルへ入社後、五年目に渡欧し「ホテルボリバージュ」などを経てカナダのモントリオールにある「ホテルボナベンチュル」で修業する。一九七一年帰国し、一九九七年から現職。九九年には運輸大臣表彰を受賞する。
◆おの・やすお=慶応大学経済学部卒業後、大倉商事(株)入社。一九六四年から七年間ドイツのデュッセルドルフ駐在の経験を持つ。その後、カナダビーフのマーケティングディレクターを務めた後、カナダビーフ輸出連合会駐日代表に就任。東京都出身。