シェフと60分:BISTROT MITSOUオーナーシェフ・平田充氏

2002.03.18 248号 13面

「なによりも楽しんで料理を食べてもらうのが一番。楽しく食べて飲んで、お客がおいしかったよと満足されて帰ってもらいたい。フレンチだからって緊張したり、気どったりしてほしくないから店も設計の段階で、なるべく高級感を出さないようにという注文を出したくらい」と笑う平田シェフ。

福岡市の繁華街・天神地区から少し離れた薬院に昨年11月に「ビストロ・ミツ」をオープン、早くも口コミで人気の店だ。

「福岡ではフレンチというとまだ高級レストランのイメージが残ってるんですよ。フレンチにも高級レストランから大衆的な店までいろんなランクがあって、時や人に応じて店を使い分けて楽しんでほしい。福岡ではビストロと名が付いている店自体は結構多いんですが、ビストロと名をつけている割に高級店だったり逆にすごく大衆的な店だったりと、本当にビストロといえる店は少ない。福岡ではまだ、ビストロという店の形態が正しく認知されてない状態。だから提供する側も正しいビストロのスタイルを提供しつつ、フレンチでも肩ひじ張らずにおいしい料理を楽しめるんだということを、さらには食は楽しむものだということを提案していければ」と意欲的だ。

「それに福岡の人は安くておいしいものじゃないとダメという人が多いから、本当はビストロが根付く土地柄だと思いますよ」と分析する。

前菜やメーンの料理などそれぞれ数種類のなかから好みの料理を選んでオーダーする「プリ・フィックス」スタイルのレストランが今福岡で人気を集めているが、この店のメニューには前菜やメーンなどそれぞれ八種類から一四種類ぐらいの料理のなかから選べるとあってレパートリーも豊富。料金もプリ・フィックスのコースで三五〇〇円、おまかせのコースで五〇〇〇円と値ごろ感もいいのも人気の一つ。

「選べるといっても四~五種類くらいしかないメニューのなかから選ぶのって、自分が食べる側に立ってみたら面白くない。たくさんいろんなもののなかから選ぶのって楽しいでしょう。仕込みは大変だけど、お客にいろんな料理を楽しんでもらいたいし、なにより作る私も楽しい」

料理の専門学校を卒業後、日本である程度技術を習得していたものの、「やはり本場を見ておきたい」と単身渡欧。

「日本で仕事をしたほうが技術的には向上するかもしれないと思いますが、日本では経験できないことがフランスでは体験できると思う。それこそ食材も違うし、作る人もお客も、あたりまえだけど日本人とは違う。そういうものを肌で感じられたのはすごく勉強になった」と言う。

「ある程度日本で技術を身につけてのフランス行きでしたが、最初のお店では言葉も分からず、雑用からのスタート。二、三軒目のお店では、オードブル担当から野菜料理、肉料理担当と一つ一つ階段を登るように料理を任されてきました。一つのお店に腰を落ち着けてやっていると、フルコースと同じで、料理の最初から最後まで学べるのが良かったですね」と振り返る。

「私はずっと高級店でしか働いたことがなかったんですが、パリのレストランに入る前の順番待ちの時期に半年だけそのレストランが経営するビストロで働いたことがあるんです。ビストロは、たまに自分で食べに行くことはあったものの、実際働いてみて、私がやりたいのはこれなんだと感じて。絶対独立するときにはビストロをやるぞと心に決めた」という。

「福岡のフレンチの世界って、今まで老舗といわれる数件のお店に力があって、よそで修業して福岡へ帰ってきた者にとってあまりいい雰囲気じゃなかったんです。でも最近、私と同年代の方たちが東京やフランスなどから福岡へ帰ってきてそれぞれ独立したり、お店を任されたりというケースが増えてきていて、新しい風が吹いている。フレンチにしろイタリアンにしろ、今福岡の食事情は変わりつつあるというおもしろい時期にある」と考える。熱しやすく冷めやすいといわれる博多っ子気質の土地柄だけに長く客に愛される努力も大切になってくる。

「料理人のキャリアは長くても、経営者としての自分はまだ初心者。だから私も今評判のお店に行って、なぜその店がはやるのか見たり研究してます。料理がおいしいのはお客にとってはあたりまえ。店の雰囲気やスタッフとの会話など、お客はプラスアルファのなにかを求めていらっしゃるわけだから、お客とのコミュニケーションも大切。たくさんの人が私の料理を通して食の楽しみを感じてもらえればうれしい」というシェフの挑戦は始まったばかりだ。

文・カメラ 上野良重

・所在地/福岡市中央区薬院2‐16‐11、エステートモア薬院JOY1階

・電話/092・713・5227

◆プロフィル

昭和39年長崎県松浦市生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、関西のフレンチレストランで6年半勤務ののち単身渡欧。ベルギーの「アピシウス」、フランス・ブルゴーニュの「ラベイエ・サン・ミッシェル」、フランス・パリの「ギーサヴォア」といずれも二ツ星のレストランで約3年間修業する。フランスではオードブル担当から野菜料理、肉料理担当と各セクションを任されるシェフとして活躍。帰国後、福岡市のレストランバー「クラブレッゾ」で7年半料理長を務めたのち、昨年11月1日「ビストロ・ミツ」をオープン、現在に至る。店名のミツとはフランスでの修業時代に仲間から呼ばれていた愛称に由来。

◆私の愛用食材 トリュフオイル&トリュフジュース

平田シェフが現在愛用している食材として紹介していただいたのはフランス産のトリュフオイル(写真(左))とトリュフジュース(同(右))。

「味も香りも濃厚ななので、ほんの数滴使うことで香りはもちろん味にコクと深みが出る。前菜から魚に肉、サラダのドレッシングなどいろんな料理に使えるので大変便利な調味料です。使おうと思えば、うちのすべてのメニューに使えるといっていいほどの万能選手といえますね」と言う。

「安価なものもたくさんありますが、特にこのトリュフジュースは高級なほうになりますけれど、この銘柄はぐんと味がいいので愛用してます。トリュフの香りが付いているこのトリュフオイルも同様の効果を発揮しますので、大変重宝してます」というこだわりの逸品だ。

◆問い合わせ先=トリュフオイル・(株)アルカン(東京都中央区日本橋蛎殻町一‐五‐六、電話03・3664・6551)、トリュフジュース・協同食品(株)(大阪市北区太融寺町二‐二一、電話06・6315・6366)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら