うまいぞ!地の野菜(43)熊本県現地ルポおもしろ野菜発見「水前寺菜」
熊本古来の野菜として知られているのが、水前寺地方の清らかな湧水を利用して栽培されていた水前寺菜、水前寺のり、水前寺もやし。
その一つ水前寺菜は、二〇〇年前に平賀源内が命名したともいわれ、記録によると「日本へは一七五九年、オランダから伝えられ、……此葉を採り熱湯中に入れば柔滑にして水前寺苔の如し、故に水前草と名付く」と紹介されている。
この水前寺菜、長い間地場野菜として地元の人々に親しまれていたが、時代とともに栽培者が減少する中、平成2~3年ごろ、熊本県農業普及センターが郷土の野菜として育てようと、生産者の上杉サナエさんに委託栽培、なんとか絶やさずに今日にいたっていた。
「ところが上杉さんが体を壊し、栽培も難しくなったのです。ここまで育ててきた水前寺菜をこのままにしておくのはもったいない。なんとか挑戦してみよう」と取り組んだのが上畑久義さん(59)。
まずは作る者が食べてみなくてはと、昔ながらのシンプルな料理法(ゆでて鰹節をかけたり、油炒めなど)をした結果、「茶の樹のような株から出てくる芽にしては、意外に軟らかい。それに生で食べてもさわやかな香りと味がするのに感激。俄然(がぜん)、作る意欲が湧きましたね」と当時を振り返る。
水前寺菜は熱帯アジア原産のキク科の多年草。東南アジア、南中国、台湾などで栽培され、日本では九州の水前寺菜をはじめ、金沢の金時草、沖縄のハンダマが同じ品種で栽培されている。
熊本県農業研究センターによると、その栄養分はビタミンA、Cともに豊富に含み、ホウレンソウに多く含まれるシュウ酸が含まれない利点をもつ。またカリウムはアシタバより若干多く、カルシウムもツルムラサキに匹敵するほどの優等生緑黄色野菜だ。
葉は、やや肉厚で表面が緑色、裏は紫色。暑い夏にはこの紫色が薄くなっていく傾向にある。
もともと湧水で生育していたことから養液栽培の実験が試みられ、露地ものとの品質、栄養価の差はほとんどないという結果も出ている。
上畑さんが上杉さんから引き継ぐ栽培法は、「熱帯では自生するほど強靱な野菜ですが、ここでは温度管理と十分な水やりが必要。それになんといっても土作りです。うちでは牛糞やもみ殻を熟成させた完熟堆肥を与えています」
生命力あふれる株はドンドン分枝し、約六〇~七〇センチメートルほどに生長。収穫期の5~10月になると、一〇~二〇センチメートルに伸びた側枝を摘み取っていく。
「今までできるものは何でも作ってきました。椎茸、モロヘイヤをはじめ水前寺菜など。しかし中国からの輸入野菜とのからみもあり椎茸の値は下がり、今年は、ついに初めて花き栽培に挑戦、ヒマワリを始めました」と“がまだしもん”(働き者)の上畑さん。
これから本格的な収穫期の暑い夏を迎える。
「寒冷紗をかけないと葉が硬くなり、色もきれいな紫にならないから」と、上畑さんはツヤ子さんとともに水やりに余念がない。
水前寺菜は昔ながらの食べ方のほか、淡いウド風味を生かしてサラダ風に食べてよし、焼き肉の後のデザート風に食べてよし。またゆでると出てくる紫色の汁を生かし、ゼリー状にしても目先が変わっておもしろい。
「だんだん良さを分かってもらえ、県内市場だけでなく京都市場やレストランからも問い合わせをもらっています」
古くからある伝統野菜ながら、新鮮な味わいをもつ新野菜として要注目の菜っぱである。
現在、一〇〇〇株を栽培。一日一五〇g入り三〇〇袋を週二回出荷している。
■生産者=上畑久義・ツヤ子(熊本県葦北郡芦北町大尼田九三一)
■販売者=JAあしきた(熊本県葦北郡芦北町大字佐敷四二四、電話0966・82・2515、FAX0966・82・4197)
■価格=主な出荷先は県内市場だが、市場価格一パック(一五〇g入り)約一〇〇円。宅配対応可。