うまいぞ!地の野菜(45)大分県現地ルポおもしろ野菜発見「サフラン」
聖書やアラビアンナイトにも登場、古くから薬用として珍重されてきたサフラン。このサフランの魅力にとりつかれ、栽培普及に心血を注いだのが竹田市玉来(たまらい)出身の吉良文平氏である。
明治39年、医者の庭で見たサフランを何とか栽培できないものかと、人づてに知った神奈川県中郡の添田辰五郎氏から球根を譲り受けたのが栽培の始まり。
次第に衰退する養蚕に使っていた土地を生かし、当初わずか二〇~三〇球を植え付けるが、しょせんは地中海沿岸の作物。気候条件も合わず失敗するが、試行錯誤の結果、畑に植えるより水田が適することを発見。
また、放置した植え残りの球根から開花することがわかり、土や水分に頼ることなく室内で開花させる竹田産独自の栽培法を編み出した。
世界でただ一つの栽培法は、室内に保管した球根が9月中旬になると白い花芽を出し、10月下旬~11月上旬の短い期間にいっせいに開花。これを収穫し、雌しべを摘み取る。
残った球根は水稲収穫の終わった水田に戻して定植。翌年の3月初~半ば、葉が三〇~四〇センチメートルに伸び、4月中旬になると葉は黄色く枯れ、5月上旬、ニンニク大に生長した球根を掘り起こし、室内で保管する。
一個の球根から通常四つの花が咲き、一つの花には三本の雌しべがある。そのため一キログラムの雌しべを収穫するには、数千から数万個の球根を要し、一gの乾燥雌しべは、本数二五〇~三〇〇本だ。
「収穫が集中する時期には家族総出で働きました。おまけにすべてが細かい手作業です。スペインではサフラン農家には嫁にやるなともいわれていますよ」と笑う渡辺実さん。
昭和52年、生産農家により結成された「竹田市サフラン生産出荷組合」の会長を務める。
最盛期には二〇〇戸の栽培者、生産量百数キログラムという時代もあったが、現在は一〇〇戸、出荷量は五〇キログラムだ。組合員の平均年齢六〇歳。最高齢八九歳の老人も現役で活躍している。
サフランの雌しべには病気を防ぐ有効成分を含み、二〇〇〇年前から珍重されている。その薬効は、結膜炎、胃・肝臓・腎臓・膀胱の病気、咳、肋膜炎、酒の酔いを防ぐともされ、また眠りを誘い、媚薬にも用いると記されているものもある。
現在では、通経、鎮静、鎮痛、また風邪の初期症状の緩和、冷え性にもよいとされる。
竹田市は、パエリア、ブイヤベースなど着色を利用した料理食材のほか、花びらのジャム、漬け物、パン、クッキー、さらに水やアルコールに溶けやすい性質を利用しカクテル、お茶として商品化を進めている。
「田んぼに植えて以来、連作障害もなく、外国産と違い花も大きく、着色の良さには鼻を高くしています。先人から伝えられてきた竹田だけの純種栽培です」という竹田市役所農林振興課の前原文之さん。
今年は栽培歴一〇〇年。これを機により多くの人に親しんでもらおうとサフラン製品の宣伝普及のほか、クロッカス科だけにその神秘的な色合いをもつ花を、観賞用として園芸店での販売も企画中とか。
■生産者=大分県竹田市サフラン生産出荷組合(竹田市大字飛田川二〇九五‐一、電話0974・63・1011、FAX0974・63・4484)
■販売者=大分みどり農業協同組合営農部(大分県直入郡久住町大字久住六四三八、電話0974・76・0021、FAX0974・76・1154)
■価格=市場価格一キログラム一八万~二〇万円。薬局での小売価格一g約一〇〇〇円。サフラン球根(販売可)