“元気印”の地方繁盛店、キラリ光る土着の魅力
「地方ベンチャーが元気いい」とは最近よく耳にする言葉だ。地方企業が元気な理由のひとつは、商圏の狭い地方は繁盛店に育つまで時間がかかり、ローコスト運営が確立している。不況に強い。そして地方文化に根付いた食材や味には普遍性がある。いまデフレの嵐が吹き荒れる外食業界で、そんな地方ベンチャーに熱い視線が注がれている。
近年、地方の繁盛店が続々と東京に進出し、話題を呼んだ。しかしここ最近は、「地方から錦のハタを掲げて東京に乗り込んでくるのではなく、東京の企業と手を結び、『地方×東京』というジョイントワークによって、東京に基盤を築く地方ベンチャーが増えてきている」と外食経営コンサルタントの王利彰氏はいう。
今年7月に新宿にオープンした創作和食居酒屋の「虎之助」は、居酒屋「火間土」で急成長する熊本のセイエンタープライズと、コロワイドとのジョイントワークだ。
今年6~8月にかけて、都内の新宿、恵比寿、有楽町に相次ぎ出店した宮崎地鶏の「車」は大阪が本社。このうち有楽町店はJR東日本フードビジネスと提携している。
JR四国の子会社で麺類の製造・販売を手がける四国の「めりけんや」は、日本レストランエンタープライズと提携し、8月から恵比寿や上野の駅構内でさぬきうどん専門店の多店舗展開を始めた。
地方の企業にとってのメリットは、地盤がない東京に単独で出るには信用も資本力もないが、東京の資本力のあるところと組めば、万一失敗した時のリスクが少なくてすみ、成功すれば、東京のブランド力を手に入れられる。
他方、東京の企業にとって、一から新しいコンセプトを開発するより、すでに完成している地方の店を持ってきて、それを東京仕様にブラッシュアップさせた方が効率いい。いまや新しいコンセプトの店も三年で飽きられ、店舗投資を回収できないうちに採算割れをしてしまうという「外食寿命三年説」がいわれる時代だ。これまでのような凝ったデザインの過剰投資をした店舗は容易に出店できなくなった。
「地方×東京」というジョイントワークは、こうした両者の思惑が一致し実現した。
消費者にとっても、地方企業が放つ、ちょっと泥臭い感じが逆にナチュラルで新鮮に見える。
ヒットコンセプトメーカーである際コーポレーションの中島武社長も、「尖がった店には、もうみんなが辟易している。これからはオーソドックスに回帰していくだろう」と指摘している。
「東京は万人受けを狙うあまり、整形美人のようなそつのない画一的な店ばかりになってしまった。それに比べて地方ベンチャーは、一発キラリと光る魅力があり、土着の生命力がある」(王氏)
「目新しい」ということでは、これまで企業が海外の繁盛店を日本で展開する試みがいくつもあった。しかし現実には味がネックになって成功した例は少ない。それに比べ、地方の繁盛店なら抵抗がない。地方の珍しい食材や郷土料理に対する消費者の関心は高まっている。ラーメンや餃子博物館が成功したように、地方の有名ブランドを東京で食べたいという消費者の声も多い。
「ベンチャーキャピタリストたちの目が、海外から地方に向けられるようになった。これからは有力地方ベンチャーと東京の企業の仲を取り持つコンサルタントも出てくるだろう」(王氏)