近代メニューのルーツ(9)サンマー麺編 座間市・中華料理店「中福楼」
「サンマー麺」とはモヤシたっぷりのあんかけラーメンのこと。熱々のあんにからんだモヤシのシャキシャキとした食感が売り物だ。横浜近辺の中華料理店では古くから定番メニューだが、県外では無名の不思議なラーメンだ。横浜の元祖ご当地ラーメンともいえるサンマー麺のルーツを探ってみた。
「安くてボリューム満点。さっぱりとした味なので女性でもペロリと食べられるのがサンマー麺の魅力」と語るのは、神奈川県中華料理業生活衛生同業組合・専務理事で「かながわサンマー麺の会」の代表を務める岡本保さん。昭和18年横浜市出身。横浜で中華の修業をしたのち、47年に座間市で中華料理店「中福楼」を開業、以来サンマー麺の味を大切に守ってきた一人である。三年前に県内一二〇の中華料理店とこの会を立ち上げた。
会によると、「サンマー麺」は漢字で「生馬麺」と書く。広東語の発音で、「生(サン)」は「新鮮な野菜のシャキシャキとした食感」を、「馬(マー)」は「麺の上に早く具をのせる」ことを意味する。つまり、サンマー麺は「野菜たっぷりで栄養満点。そのうえ素早くできる麺」ということだ。
「昭和20年代後半、横浜市中区の中華料理屋がはじめたといわれています」
昭和20年代前半の横浜港は荷揚げ労働者で賑わい、中華食堂もたくさんあった。サンマー麺の原型は、それらの中華食堂で提供していた「肉野菜あんかけ麺」だ。過酷な肉体労働者にとってそれだけでは物足りない。そこで、手ごろなモヤシを使ったボリュームアップを思いつき、現在のサンマー麺が完成したのである。当時は港周辺に「サンマー麺ブーム」が巻き起こった。
「サンマー麺は戦後の食糧難を切り抜ける生活の知恵から生まれたもので、多くの庶民を空腹感から救ったメニューなのです」
現在、サンマー麺は神奈川県内の中華料理店で食べることができる。
「注文を受けてから中華鍋をふって、ひとつひとつていねいに作っています」
熟練した料理人がつくる「本物の味」がサンマー麺の人気の秘密のようだ。
◆店主のコメント 岡本保さん
サンマー麺は横浜で生まれた神奈川県の貴重な財産のひとつです。みんなで守って大事にしていきたいと考えています。「かながわサンマー麺の会」では、キャラクター・マーちゃんをデザインしたのぼりやポスターを作り、会員が全員でサンマー麺の宣伝に努めています。また、毎月第三金曜日をサンマー麺の日と決め、タオルなどのグッズをお客さまに配布したり、他県のイベントに参加するなど宣伝活動に勤めています。毎年2月に横浜産貿ホール(横浜産業貿易センター一階)で行われる「神奈川フェスタ」にも出店しています。ぜひ一度食べてみてください。
◆この食材を愛用しています 成田食品(株)・成田もやし
サンマー麺に欠かせないのはモヤシ。「いろいろなモヤシを使ってきましたが、『成田もやし』の食感が一番。品質も抜群です」と岡本保店主。モヤシは食物繊維、ビタミンのほかカリウムや鉄分、リンなどミネラルも豊富に含んでいる。健康野菜のモヤシをたっぷり使ったサンマー麺はとってもヘルシーなのだ。
●成田食品(株)(福島県相馬市成田字大作二九五、電話0244・36・7777)
◆一口メモ
サンマー麺の起源には、昭和の初期に中華街の店の料理長が考案したという説など、諸説がある。
◆レシピ
(1)鍋を焼いて油をなじませ、豚肉を炒めてから野菜を入れる(2)醤油、酒、うまみ調味料などで味付けをし、スープを入れて水とき片栗粉でトロミをつけてから、ごま油を入れてあんを作る(3)丼に醤油味のスープをつくり、ゆでた麺を入れ、あんをかけて出来上がり
◆店舗メモ
中福楼/所在地=座間市座間二‐二八〇、電話046・253・0255/営業時間=午前11時~午後3時、5時~8時30分、日曜定休/主なメニュー=サンマー麺(六五〇円・大盛八〇〇円)。大盛は麺三〇〇gとボリューム満点だが、あっさりとしていて飽きのこない味なので女性でも食べる人が多い。