ピカイチキッチン(69)何のためのHACCP導入か?

2007.01.01 323号 16面

◆一 HACCP導入と作業者教育の重要性

フードサービス業界の売り上げ規模は、およそ25兆円で、ほかに類を見ない巨大市場であるが、そのほとんどは中小零細企業である。こうした特有な業界でHACCPを導入することは、現実的に極めて至難な状況である。従って、こうした業界の一部においては、いきなりHACCPの導入を検討するよりも「5S」を徹底する方が先ではないだろうか。

5Sとは、「清潔」「躾」「整理」「整頓」「清掃」を意味し、食品衛生の効果を高めるための基本要件である。ところで、HACCPの導入が進まない他の原因は、保健所当局で指導している「大量調理施設衛生管理マニュアル」のように、現場の作業を熟知していないスタッフがHACCPの仕組みを策定した結果、実態作業に組み入れられなかった例がある。

例えばチェックリストの課題がある。チェックは、リスト項目を埋めることが目的になってはならず、不備を是正することが目的でなければならない。つまり、どんなにすばらしいシステムでも現場に浸透しなければ意味がない。HACCPを実行するのは現場のスタッフであることを軽んじてはならないのだ。

さらに、食品衛生に対する従業員の意識と教育レベルの課題がある。厨房施設では、清濁分離や作業動線の一方通行化が重要である。ハードのインフラ整備をしても従業員の衛生管理に対する意識が低ければ、HACCPは失敗する可能性が高い。何のための清濁分離なのか、何のための清潔区域なのか、などの基本を理解しないと、二次汚染を招く恐れを拡大することになる。

HACCPを成功させるためには、こうした前提プログラムの確立が不可欠であり、従業員に対する衛生教育や作業手順、CCPに対する徹底した監視が重要であることは前記の通りである。

◆二 HACCP対応厨房って何?

フードサービス業界の一部の機器メーカーでは、「HACCP対応厨房機器」と称して温度や時間を計測できることがHACCP厨房であるかのように説明しているが、何の温度を計測するのか理解していないようなケースもある。「HACCP厨房」は定義もなく、その内容も理解されていない点、あいまいであり使うべきではない。また、「HACCPは金がかかる」と誤解を招く原因は、このような施設設備の改善に金がかかるという意味であるらしいが、HACCPは本来施設設備を対象にしないシステムである。

いずれにしても厨房は食品を加工生産する場所である以上、消費者の生命を脅かすようなことが絶対にあってはならない。商品の安全性確保に投資しないで厨房のどこに投資するというのか理解しがたい。

((有)本山フードビジネス研究所代表 本山忠広)

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