関西版:「ぷれじでんと千房」6店舗目オープン お好み焼きがごちそうに変身
今春リニューアルした大丸心斎橋店レストラン街に、千房(株)(大阪市浪速区、電話06・6633・1570)のアッパー業態「ぷれじでんと千房」がオープンした。目の前でお好み焼きを焼き上げるカウンター席だけの店内は、柔らかい間接照明とバックに流れるジャズが大人仕様の雰囲気。オープンから1ヵ月、連日待ち時間が出るほど盛況となっている。
大阪人は粉モンが好きだ。中でもお好み焼きとたこ焼きは、家庭でも常に食卓に上がる日常食。このお好み焼きを今から34年前に「ちょっとよそ行き」な雰囲気で提供し始めたのが「千房」。大阪ミナミのど真ん中、千日前での開店だった。こだわりの原料で焼き上げ、全店舗違うレイアウトや奇抜なCMが特徴のお好み焼き店として認知され、現在、全国に直営59店舗を構えている。
「ぷれじでんと千房」は、82年にスタートした鉄板焼きスタイルの付加価値業態店で、この業態がお好み焼きの格をごちそうの域に上げる立役者となった。大丸心斎橋店は6店舗目。
フワッとした食感で多くのファンが付いている千房のお好み焼きは、産地や素材にこだわった新鮮食材、粉、水に、トッピングのウスターソース、お好み焼きソース、マヨネーズと、すべてオリジナルに研究された独自の味。さらに「ぷれじでんと千房」の売りは、食べる速度を見極めながら熱々の料理を出す鉄板焼きで、自分のための空間はもてなされている感が漂う。目の前で焼いて提供するステーキ、シーフードなどの高級食材を使ったコースや創作一品料理が人気だが、あくまで主役はお好み焼き。どのコースも自慢のお好み焼きで占められる。
ぷれじでんと千房の百貨店初出店となった大丸心斎橋店は、3カウンター35席のレイアウト。着物生地を使った装飾や、和を意識した重厚な店内デザインは、「お好み焼きがここまで上品に食べられる」と感心させられる内装。バーカウンターも配され、赤・白のワインにシャンパン、カクテル、焼酎から地酒まで、あらゆる種類のアルコールが食事とともに楽しめる。
ランチタイムはコースの注文が多く、4種類あるランチで1番の人気は「薫」。モッツァレラチーズとベリーリーフサラダ、プリプリ烏賊のステーキバケット添え、本日のお好み焼、デザートで1800円。ほかにも「響」(2200円)、「鼓」(2800円)があり、最もボリュームある「萌」は、真鯛のカルパッチョ生湯葉添え、特製エビマヨ、焼野菜、フィレステーキ、ライス、デザートで3800円。
ディナータイムは特別な日にも対応できるスペシャルコース「宴」(8580円)も用意され、来店客の約30%がコースメニューを選ぶ。また、とんぺい焼きやこんにゃくステーキなどのアラカルトメニューと、豊富なお好み焼きから、好みの味をセレクトするリピーターも多い。注文率ナンバー1は、有頭エビ、ホタテ貝柱、イカ、豚肉入りの看板メニュー「千房焼」(2100円)。
オープンから1ヵ月経過し、平均来店数は1日120人、客単価3200円。アルコール比率は約10%と他のぷれじでんと千房より低いが、目標月商の1200万円は順調にクリア。百貨店に来る客層は食へのこだわりも強く、使用食材への質問も多いので、「20代の若いスタッフでも受け答えがしっかりできるよう基本的な接客に加えて、気遣い、もてなしの精神を持てる教育を行っている。かゆいところに手が届く接客を目指している」とは、同社の山崎幸治SV。
厳選されたグルメな店が並ぶ百貨店のレストラン街は、お客にとって、より取り見取りの環境だが、最初からお好み焼き目当てで来店する同社の路面店とは少し勝手も違う。落ち着きと重厚感を出した店舗は中が見えない造りのため、「のれんを持ち上げ、どうぞ店内をご覧ください」と、前を通る人々に呼びかけることで、ぷれじでんと千房になじみのないお客にも、雰囲気が伝わり入店してもらえるそうだ。来店客は、熟年夫婦や夫人連れを中心に、女性一人も意外に多く、鉄板カウンターを挟んで自然にスタッフと会話も交わされている。
この店は、中井政嗣代表取締役社長が「まだ極めてはいないが、現在の最高峰」とする肝入りの店舗。これまでもお好み焼きを道具に非日常空間を提供し、明日への活力、再生産の源になる店造りを行ってきた。大衆の味をディナーメニューにまで高めた千房のお好み焼きだが、氏によると「80%のお好み焼きを目指している。おいしさとは口に合うか合わないか。一般的に20%がグルメな人、20%が味オンチ、それ以外の60%が平均的なお客さんだとすれば、20%の通の意見だけを取り入れターゲットにすれば失敗する。平均的なお客さんの口に合えば、味オンチを含めて支持率80%。残りの20%は店構えやスタッフがカバーする」とし、人やスタッフの力を何より重視してきた。「環境で人は育つ。誇りを持って働いてほしい」と良い店を造ることで人材を育て、スタッフがここで働いて良かったと思える会社をつくり続けている。
◆中井政嗣代表取締役社長=中学校を卒業後、大阪の乾物屋にでっち奉公。洋食の料理人を経て、お好み焼き屋開店。73年に千房1号店オープン。現在は直営店59店舗を展開し、従業員786人、アルバイトを含めると1000人を抱えるまでに千房(株)を育てた。給料が銀行振り込みに変わったのを機に、約600字の手書きメッセージを全社員の毎月の給料袋に入れ、20年以上送り続けていることからも、スタッフを大切にする企業体質が伺える。5年以内に100店舗展開、売上高100億円を目標に掲げている。「日本一泣かせる講演会」として知られる講演会も多数開催し、著書に『無印人間でも社長になれた』『できるやんか!』がある。前道頓堀商店街会長で、地元の大阪ミナミの活性化にも積極的に取り組んでいる。