関西版:なにわ食材にこだわるしゃぶしゃぶ料理「和ぎ」
食材と産地を厳選した飲食店がめっきり増えた。旬の野菜をふんだんに使ったメニューはお客をとりこにし、「地産地消」という言葉もすっかり耳になじんできた。しかし、野菜にかぎらず、肉、調味料、たれ、コメ、酒など、近隣産にこだわって食べさせるしゃぶしゃぶ料理はまだそう多くない。
大阪ミナミの千日前商店街にあるなんばオリエンタルホテルのしゃぶしゃぶ料理「和ぎ~NAGI~」は4月から、なにわの伝統野菜を中心とした大阪府内産の野菜や、大阪梅ビーフと犬鳴ポークを使ったメニューに一新した。
鮮度の高い旬の野菜を、大阪産の肉で巻き、鍋の湯にくぐらせる。ほんのり色が変わったところで絡めるポン酢醤油とごまだれは、奈良県のニシキ醤油との共同開発品。しゃきしゃき野菜の組み合わせで毎回味が変わる巻きしゃぶしゃぶスタイルも新しい。
素材、切り方で味の変わるしゃぶしゃぶ料理は、シンプルなだけにごまかしがきかない。全国から集めた最高級食材の提供だけでは、お客に感動を与えることはできないと、この店では昨夏にプロジェクトチームを発足させた。
リラックス感、大阪のアイデンティティーを伝える料理、モダンなテースト、シンプルさ–の4つをお客に伝えたい本当の価値として、作り手の情熱が伝わる食材には地産地消が必要とのコンセプトができた。
しかし、食糧自給率が心配される日本の中でも、食べることが得意な大阪の食糧自給率は2%と実に低い。食材発掘に励んだ次は、生産量の少なさが課題となり、仕入れルートの確立にも時間を要した。
看板食材として採用になったなにわの伝統野菜とは天王寺カブラ、田辺大根、毛馬キュウリ、吹田クワイ、勝間カボチャなど16品。
大阪梅ビーフとは、梅酒製造でできた漬け梅を食べて育ち、肉質も軟らかく臭みもなくビタミンEが豊富に含まれている大阪・堺産の牛肉。犬鳴ポークは、人が食べる脂質の少ないでんぷん質主体の食材を飼料にし、2ヵ月ほど長く育てることで、甘く深みがでた大阪・泉佐野産の豚肉。いずれも生産者の顔がはっきりした大阪ならではの食材。
「大阪の肉や野菜をより広く知ってもらい、生産者の思いが伝わる料理で、食の都大阪の文化を発信したい。メニュー改定以来、素材の良さと地産地消に取り組む姿勢が少しずつお客さまに伝わっていると実感している」と糸山啓介支配人。
地元素材は、旬を逃さず新鮮に食べることができるが、地域にこだわりすぎると食材調達が難しい。特に伝統野菜は、直売所や野菜に特化した一部のスーパーでしか入手できず、家庭の食卓に上がることはまだ少ない。
NPO法人浪速魚菜の会代表理事の笹井良隆氏は、「なにわ伝統野菜を作る農家のほとんどが兼業農家なのは商売として成り立っていないから。なにわの伝統野菜の価値を利用し生かした飲食店が増えれば、農家も増えるのでは」とのこと。和ぎの新メニューで消費量と農家が増えることを同氏は期待している。
◆「和ぎ」(大阪市中央区千日前2-8-17、電話06・6644・8281)営業時間=平日はランチ午前11時~午後2時30分、ディナー5時~11時、日・祝は午前11時~午後11時/席数=114席/人気メニュー=大阪梅ビーフしゃぶしゃぶ(4100円)、犬鳴ポークしゃぶしゃぶ(2900円)、大阪梅ビーフ石板焼き(1250円)、コースは梅ビーフ(6200円)と犬鳴ポーク(5000円)など。
○なにわの伝統野菜とは
江戸時代に「天下の台所」と呼ばれた大阪には、食文化を支える大阪独特の野菜が多数あったが、戦後、農産物の生産性を上げるための品種改良や農地の宅地化、食生活の洋風化が進み、地域独特の歴史や伝統を有する品種が次々に店頭から消えていった。
近年、この伝統ある野菜を見直し、昔ながらの野菜を再び味わってもらえるよう「なにわの伝統野菜」の発掘と復活が行われている。
「なにわの伝統野菜」の基準は、(1)概ね100年前から大阪府内で栽培されてきた野菜(2)苗、種子などの来歴が明らかで、大阪独自の品目、品種であり、栽培に供する苗、種子などの確保が可能な野菜(3)府内で生産されている野菜。
現在、認定を受けた16品以外にも、河内レンコン、難波ネギなどの約30品目の野菜が今後認定される予定だ。