フードコンサルティング 上場企業にモノ申す(31)8番ラーメン 野菜らーめんと長崎ちゃんぽん一皿に
◆「似たもの同士」の結婚のよう
「長崎ちゃんぽん」をご存じも多いと思います。白湯麺の上にたっぷりの野菜と、アサリやカマボコなどの海鮮食材を盛り込んだ、あのラーメンです。海鮮食材がなければ、これはまさに「野菜らーめん」そのものです。
先日、その「長崎ちゃんぽん」と「野菜らーめん」のチェーン同士が経営統合をするというニュースが話題となりました。経営統合をすることになったのは、とんかつ店を発祥として「長崎ちゃんぽん」を全国展開する「リンガーハット」と、「野菜らーめん」で創業した北陸のラーメンチェーン「ハチバン」(8番らーめん)です。
ともに創業は九州の長崎と北陸の金沢という地方勢同士ながら、かたや国内を中心に647店舗(リンガーハット)と、国内147店舗、海外でも112店舗の合計259店舗(ハチバン)を展開する大手ラーメンチェーン同士の経営統合は、マスコミの扱いはやや地味ながらも、フードビジネスの関係者としては大変興味のそそられる話題ではないでしょうか。
◆Win-Winの経営統合
今回の経営統合は、まるでビジネススクールの教科書に出てくるような「美しい」M&Aと言えます。
紙面の都合上、詳細は関連ニュースに譲りますが、両社ともラーメン業態を主力としているため事業構造は似ているものの、経営規模に大きな差があることから、単純な合併ではなく経営統合(両社の株式移転による持ち株会社設立)となったようです。
加えて、全国展開を図るリンガーハットと、タイを中心にアジア展開に強いハチバンは、出店エリアも相互補完関係にあるとともに、仕入れや製造面では規模の経済が働きコスト削減が見込めるほか、商品物流の効率化の観点からも高い事業シナジーが期待できます。
◆唯一の懸念は
出足から順風満帆のようですが、完璧な人間は存在しないのと同様に、完璧なM&Aというのもありません。そこで今回の経営統合の「死角」を考えてみると、次の1点が浮かんできます。
それは、両社ともに創業家が大きな影響力を有していることです。両社とも上場しているとはいえ、オーナー色が強いからこそ今回の経営統合の意思決定ができたであろう半面、今後は両社の創業以来の色濃い企業文化の違い、人事組織面の違い、それぞれの後継者問題など、いわばオーナー系企業に特有の課題、問題が顕在化してくる時こそが、本当の意味で今回のM&Aのヤマ場を迎えるといえるのではないでしょうか。
●フードコンサルティング=外食、ホテル・旅館、小売業向けにメニュー改善や人材育成、販売促進など現場のお手伝いを手掛けるほか、業界動向調査や経営相談などシンクタンクとしても活動。