惣菜弁当の殿堂(24)あずま屋「カレー」 マヨとソースのカレーの“妙”
◇具材の代わりに鶏ササミフライ 女手一つカレー1品で子ども4人育てる
沖縄県は宮古島の「あずま屋」は、高校生相手の「カレー」で有名なカレー弁当の専門店。白飯に鶏ササミフライをのせたフードパックが軒先に並び、注文後に店員がカレールーをかけ、客は好みにマヨネーズと中濃ソースをトッピングして持ち帰る。これだけで日販150食、最盛期は400~500食に達したという、宮古島のソウルフードである。カレーの底力を存分に生かし、シンプル・イズ・ベストを地で行く、ユニークなローカル事例だ。
●商品概要:じっくり煮込んだ通称“トロトロルー” 営業時間は実質2時間
立地は県立宮古高校のはす向かい。客は宮古高校の生徒がほとんど。
正午近くになると、白飯に鶏ササミフライをのせたフードパックが軒先に並ぶ。客が注文すると、店員が鶏ササミフライの上にカレールーをかけ、客は好みでマヨネーズと中濃ソースをトッピングして持ち帰る。カレールーは、通称“トロトロルー”と呼ばれ、具材が溶け込むまでじっくり煮込むため、固形具材は皆無。鶏ササミフライは、薄切り60gをカラーパン粉で揚げたもの。マヨネーズと中濃ソースはディスペンサーに詰められていて、客が自由にトッピングできる。
サイズ・価格は、白飯の分量により大300g・300円、中200g・200円、小150g・150円の3種類。昔は大300gだけだったが「最近の子は昔ほど食べないからねえ」(高江州清子店主・67歳)として中と小が追加された。
●商品発祥:子どもに助言され独立決意 夢に現れたおばあに従って成功
発祥は1990年。高江州店主の夫が家出し、子ども4人を抱えて路頭に迷っていた際、子どもの「お母さんの料理を売れば大丈夫だよ!」という声に励まされ、独立開業を決意した。そして、思いつく家庭料理を弁当にして売り始めた。だが日販10食にも届かず、開業から1ヵ月間、失意のどん底を味わった。
「もう辞めようかと思った矢先、夢におばあが出てきて『カレー1本に絞りなさい』と言われたんです。それを実行すると、翌週10食ほど売れて、翌々週は20食、週ごとに10食ずつ増えて、100食を超えるまでに」(高江州店主)
その後、仕込みの手間を省いて利益を増やそうと、具材の量を減らしたところ、またしても販売不振に。
「すると、また夢におばあが出てきて『具材を増やしなさい』と。それで具材を元に戻したら、販売数も元に戻ったんです」(高江州店主)
しかし仕込みの手間は改善されず、とりわけ野菜をむいて切る作業に長時間を要し、体力的にも限界を感じていた。
「お告げを守る妥協案として、具材を減らす代わりに鶏ササミフライをのせることを思いつきました」(高江州店主)
そのアイデアが当たって日販400~500食の繁盛店に成長。無事、子ども4人を女手一つで育て上げた。息子の一人は甲子園に2回出場したという。
●ポイント:マヨネーズ1日1kg2本 中濃ソース2日1.8L1本
マヨネーズと中濃ソースをトッピングするのが、このカレー弁当の“妙”。きっかけはサラダ用のマヨネーズ。かつてサラダを商品化した際、調味用のマヨネーズを軒先に置いていたところ、学生が勝手にかけるようになり、中濃ソースにも広がったという。
「大量に使われるので原価的にもキツい。でも育ち盛りの高校生にダメとは言えないし。仕方ないですね」(高江州店主)
●販売実績:最盛期は日販400~500食 現在は小遣い稼ぎと趣味
現在、マヨネーズは1日に1kgを2本、中濃ソースは1.8Lを2日で1本を使い切るそうだ。
営業時間は正午をはさみ約2時間。高校生の数が減った現在は日販150食ほどだが、団塊ジュニアの最盛期(1990年代)は日販400~500食が普通だった。
「高校生の数も減ったし、私の子4人も社会人になって皆結婚したし、いまは仲間と集って小遣い稼ぎする程度。でも、いまも毎年、春先になると高校の新入生が店に通い始めるので、なかなか辞められないですね。価格も上げられないから、もはや高校生を見守る趣味ですよ」(高江州店主)
●食材の決め手
ハウス食品「ハウスカレーフレーク」
学生から指摘され継続
じっくり煮込む“トロトロルー”のベースとなるのが「ハウスカレーフレーク」。開業当初から愛用している。原価を切り詰めようと、多数の廉価品を試してみたが、変更のたびに「カレールー変えたでしょ?」と高校生から言われるため、諦めて使い続けているという。「この味が宮古島カレーのスタンダードに定着していると思いますよ」(高江州店主)と言う。
規格=1kg(常温)
●店舗概要
「あずま屋」 所在地=沖縄県宮古島市平良字西里635-2 営業時間=午前9時~午後1時30分