これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(40)「かっぱ寿司」
昨年の初夏以降、かっぱ寿司の一〇〇円均一回転ずしが大ヒットを飛ばしている。昨年春にこの連載で、かっぱ寿司に対して大変失礼な言辞をしていた筆者は、最近かっぱ寿司「寒川店」を再度訪れて非常に驚き感動したのである。そこには、過去のかっぱ寿司には見られない、まさに正反対の運営管理が実現されていたのである。
日曜日だからかもしれないが、午後1時を過ぎてもウエーティングが途切れないのである。そればかりではない。従業員もきちんと教育されており、店長らしき若者がキビキビと指揮を執っていた。
まるでかつての元気寿司のような、QSCの完璧なオペレーションである。マクドナルドのスタッフが入り、回転ずし業界のマクドナルドを目指したあの元気寿司も、グルメ杵屋にM&Aされてからは全く元気ないチェーンに成り下がったが、今度はかっぱ寿司チェーンにそれが乗り移ったようである。
ただ壁のPOPや内装の汚れ・椅子などのインテリアのいたみは、年数が経っているためにしょうがないとは思う。がしかし、それ以上にその活気ある雰囲気が大いに勝ってお客に満足感を与えているのである。これは、チェーン理論に基づいた経営では決してない。むしろ「繁盛店経営」に非常に近い経営である。
そんなことを考えながらワクワクして待っていると、ついにわれわれの順番が来た。レーンの中をのぞいてみると、これまた生きのよいネタが載ったすしが回っているではないか。商品力も、かつてのかっぱとは思えない変貌ぶりだ。
どれでも一〇〇円という低価格なのだから、どうせ経費をけちりまくったオペレーションを展開しているんだろうとうがった見方をしていた筆者だったが、どうしてどうして正社員らしい男性が店長を含め三人も入店し、結構しっかりしたすしを流しているのである。何から何までが、過日の記事のようなかっぱ寿司ではない。そして、店舗の周りの植え込みすらきれいに整理されていたのには驚いた。
別掲の記事を書いたころを思うと、隔世の観がするのである。
今日現在(二〇〇〇年1月末)の(株)カッパ・クリエイトの株価は、一七九〇円という高値で、かつてこの記事を書いた当時の約三倍近くに跳ね上がっている。よみがえったかっぱ寿司に「おめでとう!」と心から言いたい。もうアナログ(古い理論)のチェーンストア理論に拘泥することはない。
同じペガサスクラブで机を並べている「ユニクロ」だって、フリースタンディング郊外立地(サバブ)や郊外ショッピングセンター狙いから、渥美先生の嫌いなダウンタウンの若者立地(原宿・渋谷・新宿・池袋)に出店場所を変えてから、まさに大爆発し「ファミクロ」の赤字を吹き飛ばしたではないか。今年のフリースの売上げは、単なる低価格だけではない。ユニクロの優れたファッションセンスの勝利である。
かっぱ寿司もかまうことはない。いつまでもRCO(ローコストオペレーション)に固執せず、渋谷、新宿、池袋などという損益分岐点の高い物件に手を出すべきだ。そこで、今が旬の一〇〇円回転ずしで一店舗三億円も五億円も売ってみようではないか? 今よみがえったかっぱ寿司の力ならば、必ずそれはできるはずだ!
関西・大阪の郊外に、「スシロー」「すし太」「すし太郎」という大繁盛の回転ずしチェーンがある。全商品が一〇〇円皿である。冒頭に申し上げた、かっぱ寿司が一〇〇円回転ずしに転換したかなり以前から、関西郊外ではとうの昔に一〇〇円回転ずし戦争が火を吹いていたのである。
(株)寿司太郎の清水社長に話を聞いて驚いた。二二店舗を展開して六二億円も売っているのである。期中開店店舗もあるために、ならしてみれば一店舗平均三億円近い売上げを誇っているのである。それに申告所得(経常利益)が三億一〇〇〇万円もあるのには驚かされる。
しかしそれだけではない。大阪の守口市にある兄弟会社(屋号「あきんど」という回転ずしチェーン)もすさまじい売上げを誇る。二十数店舗で七五億円も売っているというのである。これも一店舗平均売上げ三~四億円というすごさである。同じく申告所得は約四億円である。
この両社が昨年8月に合併し、昨年新生(株)すし太郎が誕生した。総売上げ一三七億円、申告所得七億円の一大回転ずしチェーンが誕生したのである。
写真は枚方市郊外の「あきんど」。この平日ランチで、約五〇〇人の来店客数があった。これほどの一〇〇円回転ずしパワーが、関西・大阪圏では既存の回転ずしチェーンを至る所で揺さぶっている。そのために既存の回転ずしチェーンは、より高級な「グルメ回転ずし」へと方向転換せざるをえなくなっている。
それもそのはず、レーンを回っているネタにビックリした。ウニでもイクラでも、これが一〇〇円かと見まがうばかりの商品が流れてくる。この商品力にはあきれてものが言えない。栃木県のすし王者「小野瀬水産=すし勢」のような、グルメ系回転ずしなら話は分かる。しかしここは、一〇〇円回転ずしなのであるからビックリするのも当然である。
(株)すし太郎の清水社長は言う。
「私はもともと、すし職人なんです。厳しい修業の後、大阪・阿倍野に昭和50年に店を持ちました。いろいろありましたが、59年から思い切って回転ずしに方向転換し、一時は三〇店舗近いフランチャンズチェーン展開をしてきました。
しかし、システムの肥大化でさまざまなクオリティー(品質)の低下に悩まされ続けてきました。平成3年には、FCチェーン展開をあきらめすべて直営による展開に切り替えました。
一〇〇円回転ずしを主力に現在までなんとかやってきましたが、システムの良いところを取り入れ、チェーン店展開の問題点を修正する結果となりました。“安くておいしいおすしをいつでも気軽に食べていただきたい”という、私どものモットーがここで生きたのです。
おすしのことなら、だれにも負けないという気概でやってきました。おいしいおすしのためなら、どこまでもこだわりの精神を貫き通したいのです。そんな“職人気質の回転ずし”を実現することができました。もっとたくさんのお客さまに、安くておいしいおすしを、もっと提供したい。ですから今年は、関東・東京圏進出が私たちの課題です」
いかに回転ずしというシステマチックな業態でも、そこに人間の仕事にかける生きがいというハートと、ハイテクを駆使したハードが合体しなければ、結局おいしいおすしは提供できない。そのことを考えると、かっぱ寿司のよみがえりも決してチェーンストアの低価格路線の継承だけではない。
そこには、仕事に熱く燃える人間集団の生々しい存在がある。おいしさにこだわり、お客の笑顔にこだわり、ネタの新鮮さにこだわる飲食業人としての誇りがある。それを忘れ、ただ単にチェーンのシステム(フォーマット)だけを論じるような外食産業論は、もう過去のものなのである。
(仮面ライター)