この1品が客を呼ぶ:人気焼餃子は北京の点心師直伝「ニイハオ」
京王線幡ヶ谷駅近くの商店街に店を構える、餃子の店「〓好」(ニイハオ)。あん、皮、たれと、すべて手作りにこだわり、手間ひまかけて作るひと口サイズの焼餃子(8個・700円)は、本場北京の点心師直伝の味。1日に800個の注文があるという餃子の人気の秘密を探る。
中国料理の名店、東京大飯店で修業を積んでいたご主人、野坂由郎さんが独立を決意したのは一九年前のこと。
「どんなスタイルの店にするかも決めないうちに物件が先に決まってしまって。それでも店を見ていたら、中華料理でもラーメンでもない、餃子をメーンにしようってひらめいたんです」
店内は、大小のテーブル席とL字型のカウンター席を合わせて四〇席。カウンターに囲まれるようにして、面積の半分近くを厨房が占める。
「ほら、いかにも餃子の店って感じでしょう」と野坂さんは笑う。
同店自慢の焼餃子の調理法は、北京式だという。水餃子を冷ましたものを、そのままフライパンで焼くというもので、日本人にはなじみの薄いスタイルだ。これは東京大飯店にいた当時、本場北京の点心師でもあるチーフコックに習い、まかない食としてよく作ったのだという。
とにかく手間がかかるという北京式の餃子。皮は強力粉九に対し薄力粉一の割合で混ぜた小麦粉に水と塩を加えて練るのだが、練ったものを丸一日寝かせ、さらにゆでる時にベストな状態になるよう、何度も練り直す。
あんは豚肩ロースのかたまりを粗みじん切りにしてたたいたものを使用、それに皮ごとおろしたショウガを加える。
湯せんで溶かした豚肉の背脂に醤油、ごま油、コショウを合わせ、すべて包丁で刻んだ白菜、キャベツ、ニラ、長ネギを加えて混ぜる。
「皮を手作りしたり、肉や野菜を、機械を使わずにカットするのは、食感を重視しているからなんです。皮は小麦粉本来の味とモチモチ感があるし、あんにしても皮に負けない、歯ごたえが楽しめますからね」
皮とあんは、チーフコックに教わった本場北京のレシピどおりに作るが、沙茶醤(サージャージャン)をベースに、醤油と酢を加えたたれは野坂さんのオリジナル。沙茶醤は本来、焼き肉やバーべキューソースとして使われるものだが、試しに使ってみたらマッチしたという。
野坂さんはホームページや料理教室などで、餃子のレシピを惜し気もなく披露している。なぜか。
「レシピはあくまでも基本ですから。例えば皮を練る作業一つとっても、温度や湿度によって、微妙に作り方は変わってきます。やっぱり最後は長年の勘に頼るしかないですからね」
レシピどおりに作ったとしても、〓好と同じ餃子は作れない。そんな自信が言外に感じられる。
そんな野坂さんだが、ひとつだけ本来のレシピどおりにできないと悔やんでいることがある。
「本場北京ではね、あんに入れる白菜とキャベツは天日干しにするんです。そうすると水分の抜け方が全然違うんですよね。でもこっちは商売だから、雨の日も作らなくちゃいけない。つらいところです」
中国の家庭では、昔から「今日は天気がいいから餃子にしよう」といった慣習があるという。それは、具材を天日干しにするということからきているのだろう、と野坂さんは言う。
小麦粉の味とモチモチ感が楽しめる皮、肉のゴロッとした食感と野菜のザクザク感が味わえるあん。そして水餃子をそのまま焼くという斬新なスタイル。それが、地元客中心に多くの客を魅了しているのだろう。
◆餃子の店「〓好」=東京都渋谷区西原二‐二七‐四、升本ビル二階、03・3465・0747/坪数・席数=一二〇坪・四〇席/営業時間=午後5時~午前0時、日定休
○記者席からのコメント
「何てしっかりした餃子なんだろう」という印象を受ける焼餃子。厚めの皮と、それに負けない歯ごたえのあるあんが、主食としても十分に通用するのだ。水餃子をフライパンで焼くというスタイルは初めてだったが、多めの油で両面をこんがりとキツネ色に焼き上げた餃子は、焼き餃子のカリッと感と水餃子のモチモチ感の調和が楽しめ、クセになる味。沙茶醤がベースのたれは、香ばしさとスパイシーさがあり、餃子にマッチする。まさに三位一体の妙が楽しめる餃子だ。
○こだわりの食材・シジミ
紹興酒のつまみとして人気の「シジミ醤油漬」(八〇〇円)。このメニューに使用するシジミは、青森県の小川原湖産のものでなければならないと、野坂さんはかたくななまでにこだわる。「宍道湖、利根川、最上川など、産地とされるシジミはいろいろ試してみましたが、トロリとしたふくよかな身と、エグみのなさ、食材としての奥行きの深さなど、小川原湖産に勝るものはありませんでしたね」。このシジミを紹興酒、醤油、酢に一日漬けて、刻んだニンニクを添える。シジミ本来の自然の味が楽しめる逸品だ。