この1品が客を呼ぶ:「ル ブルターニュ表参道」そば粉クレープ
フランス、ブルターニュ地方に古くから伝わる家庭料理のガレットは、いわばそば粉を使用したクレープ。そんなガレットが今、若い女性を中心に、静かなブームとなっている。初めて日本にガレットを紹介した本場ブルターニュ出身のオーナーシェフを訪ね、そば粉クレープの魅力に迫ってみた。
豊かな自然と風土に恵まれたフランス北西部のブルターニュには「クレープリー」と呼ばれる店がカフェよりも多く存在し、シードルやワインを飲みながら「ガレット」を食す人たちであふれている。
クレープというと、日本ではデザートというイメージがあるが、ガレットは小麦粉の代わりにそば粉を使用したクレープで、それをメーンに前菜やデザートをフルコースで楽しむ、れっきとした食事メニューだ。
「ル ブルターニュ」のオーナーシェフであるラーシェ・ベルトランさんはブルターニュ生まれ。フランスやスイスのレストランで腕を振るった後、平成7年に「東京ブラッスリーオーバカナル」のマネジャーとして来日。
「ある日、テークアウトのクレープ屋台が軒を連ねることで有名な原宿に行ったんです。ところが、メニューはすべて甘いものばかり。それまで親しんできたクレープとのあまりの違いに、衝撃を受けました」
調べてみると、当事日本にはクレープの専門店がなかった。そこでベルトランさんは、伝統のあるガレットを正しい形で日本に伝えたいと、本場のクレープリーを開くことを決意。平成8年、東京・神楽坂に第一号店をオープンさせた。
オープンにあたっては、ガレットだけでなく、ケルトの文化や歴史も同時に伝えたいと、メニューはもちろん、BGMやインテリア、陶器の皿から民芸品、ナプキンに至るまで、すべてにベルトランさんのこだわりが盛り込まれている。
クレープのメニューはガレットとデザート系に分かれるが、ガレットの種類だけでも七〇〇~一六〇〇円まで一五種類もある。一番人気は、卵、チーズ、トマト、ハム、マッシュルームの五種類の具を使用した「コンプレット トマト シャンピニオン」(一二〇〇円)。ほかにもグリエールチーズや山羊のチーズ、プロションチーズ、スモークサーモン、生ハムなど、さまざまな具材を使ったガレットがある。
生地は独自にブレンドした日本産のそば粉を一〇〇%使用、それにブルターニュ産の塩と有塩バター、そしてシードルを合わせて練る。こうしてできた生地をこんがりと焼き、具材を包むようにして完成だ。
「フランスでは、その道ひと筋のクレープ職人をクレーピエと呼びます。本物のガレットの味を楽しんでもらうためには、やはり彼らが作ったものでなければならないと考え、ブルターニュから四人のクレーピエを呼び寄せました」
そば粉の厳選にはじまり、最高品質の素材しか使わないというこだわり、そして本場の職人のスカウティング。ル ブルターニュのガレットは、まさしくブルターニュの伝統と風土を形にした、最高の料理なのだ。
神楽坂でガレットの人気を確立したベルトランさん。平成10年5月には「気候がブルターニュに似ているから」と札幌店を、次いで10月に「流行の発信地で出店することが念願だったから」と、ここ表参道店をオープンした。
さらにまた、来春にはブルターニュでのオープンも予定しており、故郷で錦を飾る日も近い。
海外のさまざまな料理やデザートがブームとなっては、またたく間に消え去っていく昨今だが、ガレットはそうした一過性のものではなく、日本の食文化にどっしりと根をおろしそうな予感さえ感じさせる。
○記者席からのコメント
われわれがクレープと呼んでいるものとは明らかに違うガレット。生地の焦げ目と具材の鮮やかな色合い、そしてボリュームが目を楽しませてくれ、さらにaxチーズの風味と生地の香ばしいにおいが鼻孔を刺激する。そば粉とシードルを使った生地は風味がしっかりとしていて、日本のしっとりとしたものとは違い、温かいうちはパリパリとしていて、食べごたえがある。シードルを飲みながら食べるのが本場のスタイルだが、そのシードルもやはり日本のものとは違い、甘みがなく食事系のクレープによくマッチするものだった。
○こだわりの食材・シードル ヴァル ド ランス
ブルターニュ産の厳選されたリンゴを使ったシードルは、水やガスを一切加えないという伝統製法で作られた発泡性リンゴ酒。リンゴポリフェノールが含まれ、ヘルシーな低アルコール飲料(アルコール分四・五%)として、発祥の地といわれるブルターニュ地方では、ワイン同様に一般的に飲まれるアルコールだ。飲料としてだけではなく、ル ブルターニュではガレットの生地にこのシードルを混ぜ込む。生地がしっとりとなじみ、そばの香りを引き立たせる特徴があるという。
仕入れに関する問い合わせは、「ル ブルターニュ」(03・3235・6454)まで。
◆「ル ブルターニュ 表参道」=東京都渋谷区神宮前四‐九‐八、03・3478・7855/坪数・席数=三〇坪・六〇席/営業時間=午前10時~午後11時(金・土曜午前0時、日曜午後10時まで)、月曜定休