地域ルポ たまプラーザ、緑もまぶしい田園環境
東急田園都市線のたまプラーザは、渋谷から南西方向へ約一五km、急行に乗れば二〇分足らずで着く。
この路線は東急グループが川崎市の宮前区や横浜市の緑区、東京・町田市などに広がる丘陵地に、住宅都市を建設するために敷設したもので、昭和41年に溝の口‐長津田間が開通、そして昭和59年に町田市の中央林間までの全線が完成した。
現在では、沿線に多くの住宅都市が広がっており、東京郊外のベッドタウンとしての機能を果たしている。
この中にあって「たまプラーザ」は沿線の東地区にあり、良質の住環境を呈しているほか、東急プラザ百貨店やイトーヨーカドーなどの大型商業施設を中核にして、多くの小売店舗を集積しており、住宅街とリンクする商業ゾーンとしての発展をみせている。
「たまプラーザ」は横浜市緑区の北東部の端に位置し、東側(上り方向)の鷺沼(川崎市宮前区)と接する。
丘陵地の谷間のホームから改札口に上がる。改札口を出て見通しのきく通路から周囲を眺望すると、アップダウンのある丘陵地に住宅街が広がっているのが見える。
駅出口は北口と南口に分かれるが、南口は斜面の下に広がる空間で、駅舎周辺は駐車場のみで、目立つ施設としては東急ケーブルテレビジョン放送センター(TCT)があるくらいなものだ。
TCTは東急田園都市沿線の全域で、CATVネットワークづくりを推進している企業だが、現在、地域メディアとして国内では最多の映像三五チャンネル、音声七チャンネルを事業化し、わが国有数の都市型CATVとして関係業界の注目を集めている。
北口に出ると、そこはゆるやかなスロープになった駅前広場で、カラー舗装された広い空間は桜や樟の緑もまぶしく、住宅都市にふさわしい環境を呈している。
広場の正面は駅前通りを隔てて、たまプラザ東急ショッピングセンター(東急SC)が位置している。昭和57年のオープンで、地上五階、地下一階、延床面積約一万九〇〇〇坪。
東急百貨店(九三年度売上げ三二〇億円)をキーテナントとして衣料、雑貨、家庭用品、食品、飲食などの専門店約七〇店が入居しており、地域で最大の商業集積を誇る。
フロア構成は一階が百貨店センスアッププラザ、専門店のレディスウエア、カジュアルウエア&ブックス、二階百貨店ドレスアッププラザ、専門店のリフレッシュメント、ホームファーニシング、ドレス&アクセサリーズ、三階百貨店メンズ&チルドレンズプラザ、ガーデンプラーザ、四階百貨店ファインリビングプラザ、五階百貨店ファンシー&レストランプラザ、RF百貨店スカイランド、地下一階百貨店デイリーライフプラザ、専門店のホームグッズ&バラエティ、カジュアルレストラン、リフレッシュメントといった展開になっている。
飲食店舗は地下一階の専門店街にハンバーガーチェーンのマクドナルドをはじめ、メルクール(クレープ、喫茶)、GELATO MILANO(アイスクリーム)、渋谷・ニシムラ(フルーツパーラー)、茶の葉(グリーンティハウス)、モーツアルト(ケーキ・喫茶)、サリータ(イタリア料理)、アクバル(インド料理)の八店舗。
また、一~二階専門店街にもAVANT(喫茶)、東京・風月堂(ケーキ・喫茶)、テラズ(フランス料理)の三店舗、さらに百貨店の五階にコビー(ファミリーレストラン)、サンジェルマン(レストラン、喫茶)、天久(天ぷら)、かつ味(とんかつ)、讃岐茶屋(手打うどん)、チャイナガーデン(中国料理)、寿司よし(すし)の七店舗、このほか同二階にサロン・ド・テ サンジェルマン(喫茶)が出店しており、専門店街と百貨店を合わせて計一九店の飲食店舗を集積している。
東急SCの東側に道路一本を挟んでイトーヨーカドーが出店している。三階建、延床面積約二六〇〇坪。昭和54年3月のオープンで、九三年度は売上げ一〇八億円を上げている。しかし、これは前年比八%の売上減だという。(イトーヨーカドー広報室)
「たまプラーザ」は行政地番でいえば、駅北側が美しが丘一丁目から五丁目の五ブロックで、世帯数約一万、人口二万五三〇〇人。
駅南側は新石川一丁目から四丁目までで、世帯数四二六〇、人口一万人。南北のブロック合わせて、世帯数一万四二六〇、人口三万五〇〇〇人強ということで、これが地域の基本商圏でもあるということだ。
しかし、広域の商圏を考えれば、緑区は世帯数一六万四二〇〇、人口四五万二五〇〇人(平成6年6月1日現在)であるので、路線に加えて車でのアクセスを加味すると地域の商圏人口は四五万人以上ということになる。
この商圏人口に対応して東急ショッピングセンターやイトーヨーカドーといった大型商業施設が出店しているわけだが、これら施設を核にする形で、駅周辺にはまだ大きなボリュームとしての存在にはないが、コンビニエンスストアや飲食、物販などの小売店舗の出店も多く、この数は年々増加しているという。
「横浜市の商業」(平成3年商業統計調査報告書)によると、たまプラーザ駅周辺の商店数は二六七店で、延売場面積約一万四〇〇〇坪、年間販売額約七八〇億円という数字をみせている。
これら数字については東急、イトーヨーカドーの貢献度が大きいというのは説明するまでもない。
駅広場から正面の通りを渡れば東急SCだが、広場から通りに沿って左へ曲がると、棟続きでミスタードーナツとケンタッキーフライドチキン(KFC)が目に入る。
両店とも(株)東急ジョイガーデン(本社横浜市緑区)が経営するFC店で、「ミスタードーナツ」は今年2月に新装オープン、「ケンタッキー」は一〇年前からの出店だが、同時期に改装オープンした。改装以前はケンタッキーフライドチキンが占有していた建物だが、これを二分しての改装オープンだ。
店舗面積五〇坪強、客席数約六〇席。ミスタードーナツは二階建で、一階がオーダーカウンター(テイクアウトコーナー)、二階が客席というフロア構成。
KFCは一階フロアで、客席はレジカウンターを真ん中に左右二つのコーナーに分かれる。
客層も変わりなく同じでファミリー客や主婦、学生などで、土日はショッピングで来街するファミリー客が主体になるという。
テイクアウト六割、イートイン四割、これも同じだ。客単価はミスタードーナツが六〇〇円前後、KFCがイートイン六〇〇円、テイクアウト一二〇〇円といった水準だ。
両店を左に見ながら歩道を三〇mほど前進すると、集合住宅の一階にサンドイッチチェーンの「サブウェイ」が出店している。
ハンバーガーショップなどに似たFF機能の店で、最近都心でよく見かけるようになった。サントリー(七〇%)と子会社のファーストキッチン(三〇%)が設立した日本サブウェイが、米サブウェイと提携して事業化しているアメリカサンドのチェーンで、この店は平成4年12月にオープンした郊外FCの第一号店だ。
店舗面積三四坪、客席数四〇席。タテ長のフロアレイアウトで、明るく軽快な雰囲気が漂っている。
人気メニューはコールドカットコンボ(三八〇円)、シーフード&クラブ(四四〇円)、ミートボール(三九〇円)などで、客単価はイートインで八〇〇~一〇〇〇円、テイクアウトで二〇〇〇~三〇〇〇円。
ハンバーガーやフライドチキンなどのFF商品に比べ高い客単価だが、これは一つのメニューにたとえば、ミートボールであれば、シックスインチ(一五cm)三九〇円、フットロング(三〇cm)七〇〇円というように、二つの価格があり、客単価が高くなる仕掛けにあるからだ。
客層は学生や若い女性、カップル、主婦など。しかし、オーダーシステムが単純でないので、まだ集客力は弱く客数は十分とれていない。
このため、売上げも目標以下という状況だ。(オーナー兼店長今関秀雄さん)
サブウェイからさらに歩道を西に進むと、二車線の交差点で、信号機に「たまプラーザ駅入口」となる。これを越えてなお西に進めば、モスバーガーやセブンイレブンが出店しているが、交差点の角を左(北方向)に歩くと左右の低層集合住宅の一階に、飲食店や弁当ショップ、酒屋、家電、DPE、メガネショップ、洋品店といった小さな店が軒を並べている。
そこを通り抜けて一〇〇mほど前進すると、ゴルフ練習場のネットが見える。そこは通りに左手から道が直角にリンクするT字型の交差点で、新石川公園北側と表示してある。
交差点の手前角にフリースタンディングのレストラン「ジョイガーデン」が出店している。前記のミスタードーナツやKFCと同じく、東急ジョイガーデンが経営するレストランで、昭和57年のオープンだ。店舗面積約一〇〇坪、客席数一二〇席。メニューは和洋中など約八〇品目(六〇〇~一〇〇〇円前後)を揃えており、多様な飲食ニーズに対応している。
人気メニューはオムライス八〇〇円、グリルチキン八八〇円、フカヒレぞうすい八八〇円、シチューハンバーグ九八〇円、ドイツハンバーグ九五〇円ほか、パスタ類七〇〇~一一三〇円、デザート類三八〇~四八〇円などだが、客層は主婦など女性客八割を主体にしてファミリー客やカップル、地域のサラリーマンなどだ。
客単価は一〇〇〇円。これは目標数値より四〇円ほどアンダーというが、不況が長引くせいもあって、ここ数年は客数も横ばい気味で、売上げも目標を下回るという状況だ。
月商一五〇〇万円。二〇〇〇万円はクリアしたいところだが、これは現在積極化しているパーティー客の集客と、予約受付けのケータリングサービスなどの成果の向上で、年内にも目標をキープできるとみている。(杉田修マネジャー)
美しが丘の高級住宅街や新石川地区の集合住宅街が向背地に展開しながら、地域にみるフリースタンディングの店はジョイガーデンくらいなものだが、ビルインの出店形態の飲食店舗は、東急ショッピングセンター裏手(北側)の「たまプラーザ駅前通り商店会」や、同ショッピングセンター東側の「たまプラーザさわやかシティ」(商店街)にも多く目にすることができ、店数は年を追って増えてきているという印象だ。