地域ルポ 二子玉川園(東京・世田谷(1)豊かな自然だが活気乏しい商店街
東急の二子玉川園(世田谷区)は、野毛、上野毛、屋山台、田園調布が近接する住宅地で新玉川線と田園都市線、大井町線の三線が合流する。一日の乗降者数約八万人。駅利用者は年々微増の方向にあり、東急沿線の中でも人の往来が激しい駅の一つだ。この駅は多摩川に接しており、広い河原が一望に見える。対岸は川崎市(高津区)で、晴れた日にはプラットホームから南西方向に富士山を眺望することもできる。水の流れと河川敷の草木、豊かな自然が目の前に展開する。二子玉川は東京でも数少ない恵まれた自然環境にある。
ホームから下りて改札口を出る。出口は東口と西口の二つに分かれる。東口はバスターミナルになっており、利用客が一日一〇万人という一大バスターミナルだ。しかし、駅前という立地にありながら拓けた状況にはなっていない。
目立つ商業施設といえば、東急ハンズと東急ストアくらいなもので、街の拡がりと賑わいというものが感じられない。飲食店舗はアイスクリームの「バスキンロビンソン」、カフェレストラン「チェアデリー」、中華ファストフード「レインボウ・チナキッチン」と、お好み焼き「十兵衛」といった各八坪ほどの棟続きの小さな店舗が、四店並ぶといった程度のものだ。
それも木造一階建ての仮設店舗といった雰囲気のもので、事実、これらの店は先行きにおいてはスクラップされる運命にあるようだ。
というのは、この地域は駅東口から元二子玉川園(遊園地)にかけて東急電鉄が大規模な再開発事業を計画しているからで、このために高層ビルなど恒常的な建物は一棟も建っていないのだ。
前記のハンズや東急ストアにしても、一階平屋建ての仮設的な造りで、いつでも壊せるという形のものだ。
東口の周辺を歩いてみると、あちこちに空地が点在しているのが目につく、再開発事業に備えて、東急が用地買収を進めているということが理解できる。
バスターミナルに接して、東西方向に道幅の狭い野沢通りが走っている。昔の街道でいまもその面影を残している。この通りは「玉川商店街」を形成しており、通りに沿って低層の小さな店舗が建ち並んでいる。
地域密着の最寄品店の集積といった趣で、飲食店にしてもひと昔前の「食堂」という雰囲気だ。決してファッショナブルな商店街ではないが、どこかノスタルジアを感じさせる面もある。
店舗は衣料、雑貨、食料品、飲食店など約一〇〇店を集積している。しかし、車の往来が激しい通りでもあるので、安心して買物ができるという環境にはない。このため、まとまった買い物やショッピングを楽しむという場合は、地域住民の多くは近くの東急ストアや西口の高島屋を利用する消費行動にあるという(地元商店経営者)。
商店街を東に一四〇~五〇mほど歩くと、かつてレジャーゾーンとして賑わった二子玉川園だ。
現在は例のナムコの都市型テーマパーク「ワンダーエッグ」が営業しているのをはじめ、ヤナセの輸入自動車およびモーターボート、クルーザーの展示場、東急スポーツガーデン(パターゴルフ、テニス、プール、アイススケート)のほか、ビアレストラン「サントリーモルツクラブ」、タイレストラン「バンタイ」、懐石風和牛ステーキ処「但馬屋」などが展開しており、かつての施設内容とは性格を異にしている。
駅名にもなった二子玉川園は、明治40年、当時の玉川電鉄の開業と前後して開園し、さらに大正11年7月に第二遊園地を建設した。
メリーゴーランドや日本最大のジェットコースターなどがあり、わが国草創期の大レジャーランドとして広く人気を博していた。昭和30、40年代が最も賑わった時代だったが、昭和60年3月に集客力の低下から閉園を決定し、前記の施設展開となっている。
実はこのエリアは、東急がデベロッパーとなって再開発を意図している場所で、昭和58年6月「二子玉川東地区再開発準備会」が発足し、同年12月に世田谷区が「二子玉川地区再開発基本構想」を発表、61年に正式に再開発促進地区に指定している。
再開発基本構想によると、この対象地域は遊園地の跡地を主体に東西約一〇〇〇m、南北約二〇〇mの範囲の五万五〇〇坪で、ここに一~三街区(三万九〇〇坪)の三ブロックのゾーニングで、三二層の高層オフィスビル一棟を中心に、一六層、八層のオフィスビル二棟、六層、五層の商業ビル二棟、三九層の住宅ビル一棟、一六層のホテル一棟などの都市施設を建設するプロジェクトだ。
これら施設に加えては、公園街(一万九六〇〇坪)も建設する計画であるほか、周辺整備として二四六号線の拡幅、多摩堤通り、上野毛通り、野沢通りの拡幅事業も推進することになっている。
この再開発事業が具体化されれば、地域の活性化に大きく貢献するということだが、しかし、地域の有力地権者の中には、東急の用地買収のやり方と事業内容に反対を表明している者もあり、今年5月からの工事着工予定が大幅に遅れている状況にある。
地権者との十分な話合いによる解決が望まれるところだが、バブルがハジケて消費不況が本格化している現在、再開発事業そのものが厳しい状況に立たされており、今後の推移が注目される。