地域ルポ 田町(東京・港区)地域再開発、魅力の街づくり

1993.10.18 38号 4面

JR田町駅は山手線と京浜東北線が停まる駅で、一日平均三〇万人の乗降者がある。沿線の駅では比較的人の出入りが多い方で、朝夕はもとより終日人の往来が絶えない。駅周辺に大手企業のオフィスや工場、学校などが多くあるせいで、活気ある独自の街並みを形成している。

駅は東西二つの乗降口があり、乗降者はほぼ二分する形で駅を利用している。

東口は東京湾臨海部に接する地域で、「芝浦」 (一~四丁目)や「海岸」(一~三丁目)、あるいは「港南」(一~五丁目)の地名で知られている。西口は第一京浜国道に沿って、「芝」(一~五丁目)および「三田」(一~五丁目)が拡がる。

しかし、両乗降口ともに狭隘な空間で、駅前広場や駅前商店街が意図的に整備されているという状況にはなっていない。

まず、アプローチが容易な西口(三田口)に出てみる。改札口の階段を下りると即右手に位置するビルが森永プラザビルで、森永の本社が入居している。

一階に森永ラブが出店しており、駅の乗降者がすべてこのビルの前を通るというベストロケーションであるだけに、常に満席といった賑わいぶりをみせている。

このビルの地下一階はレストラン街になっており、立喰そば「丸長」、そば「謙徳」、うなぎ「麻布宮川」、やきとり「舞々亭」、とんかつ「マルちゃん」、大衆割烹「一心」、寿司「孝」、ステーキハウス「木馬」、中国茶居「多〓亭」コーヒーの店「天竜」など一〇店が出店している。

駅に近接する最もまとまった飲食ゾーンというわけだが、駅一階の乗降スペースには日本食堂経営のパブレストランがあるのみで、来街者の多様な飲食ニーズに対する同レストラン街の役割は大きい。

しかし、平成6年4月を目標にプラザビル西隣で、田町駅西口地区市街地再開発事業として、田町センタービル(地下三階、地上一五階)の建設が進められ、飲食、物販など多様な商業施設が入居する予定になっているので、さらに飲食機能は強化される。

西口地区は駅の近接地を南に第一京浜国道が走っているので、面的な拡がりは不可能だが、目前の国道を渡れば「慶応仲通り商店街」で、飲食店を中心とする独自の歓楽ゾーンを形成している。

この地域にはさらに「三田商店街」や「三田地蔵通り商店会」などがあり、地域に密着した飲食および、ショッピングゾーンだ。

地域密着といえば、西口地域には前記の森永をはじめ三菱自動車、日本電気などの大手企業のほか、慶応大学、戸板女子短大、同高・中、東京女子高・中、読売東京理工専門学校など点在しており、職と教育が混在するというユニークな地域特性をみせている。

しかし、それだけに地域への来街者も多くなるというわけで、飲食ニーズも強い。だが、西口は第一京浜で商店街が分断される形になっているので、駅と直接リンクする形での街の発展は望めない。

駅東口(芝浦口)も西口に劣らず狭隘な空間で、人がたむろできる駅前広場というのがない。ホームから連絡通路を渡ってくれば、その終端が即歩道というわけで、無機質で潤いのない様相を呈している。

西口と異なって一つの救いは、海岸通りに向って駅前通り(芝浦商店会)があることで、駅の乗降口と直接リンクすることの利点(機能)は大きい。

港区はこの機能を大きく増幅させて、街の利便性と環境を改善する考えで、平成4年6月、東口駅前の再開発計画を決定している。

これは道路の拡幅や歩道の整備、植栽、公共施設の整備といった構想のもので、二一世紀初頭には実現する。

港区はこの東口の再開発事業と連動して、臨海部の工場、倉庫街において「芝浦港南地域整備構想」を策定しており、「臨海部都心地域」づくりを推進する。

この対象地域と土地利用構想は次のとおりで、JR駅沿線の広域におよんでいる。

○田町駅東口周辺から芝浦四丁目、高浜運河沿いから北品川方面を中心に広がる地域-住宅ゾーン。

○竹芝・日の出ふ頭、台場、運河沿い-文化・研究、レクリエーションゾーン。

○各JR駅沿線開発地域-商業施設、オフィスビルゾーン。

○芝浦ふ頭、品川ふ頭-港湾物流ゾーン。

これらの地域整備および再開発事業が進めば、田町東口周辺および芝浦地区は、東京臨海部の複合都市として大きく蘇る。

しかし、事業の完成はまだ先のことだ。現実はどうか。

東口はホームからの連絡通路を渡って歩道に出れば、左右に商店が並ぶ。通りの右手は芝浦工業大学の附属高等学校で、商店が進出する余地はない。しかし、東口の再開発事業では、キャンパスを分割するか、全面移転するかで、計画を実現する構想のようだ。

それはともかくとして、駅前通り左手の商店街は、芝浦小学校の角まで約一〇〇mほどでしかない。居酒屋、食堂、立喰いそば、ファーストフード、喫茶店とあるが、名の通った店といえばハンバーガーチェーンの「森永ラブ」と、京樽のテイクアウトすしショップ「きふね」くらいなものだ。

店は間口一間ほどの小さな店が多く、しかも老朽化していて、店構えはお世辞にも清潔な感じがするとはいいがたい。

いかにも工場街の食堂、居酒屋横丁といった雰囲気で、女性客の吸引が少ないことが、店舗に魅力がないことを物語っている。

歩道もゴミゴミとしていて、うす汚さを感じさせる。感性の強い女性客や若者にとっては、単に駅につながる連絡道路であって、より積極的に来街するという展開にはなっていないという印象だ。

東口や地域の再開発事業に連動しては、魅力的な店舗づくり、感性ゆたかな施設づくりが大きく望まれるところだ。

「たしかに店は小さいし、通り全体がゴミゴミとした雰囲気であることは否定できませんね。計画的ではなく、自然発生的に出来上がってきた商店街ですからやむをえない面もあるんですが、東口の再開発事業を契機に商店会としても、若い女性たちやファミリーにも安心して利用できる、魅力ある店舗づくりを実現していかなければと考えております。

このためには行政と一体化して取り組んでいかなくてはなりませんし、また、商店会としてもいろんな視点で問題意識をもっていかなくてはなりません。そうでなくては新たに進出してくる施設などに負けて、地域間の競争にも取り残されてしまうことになると思うのです」(芝浦商店会大野家俊会長)。

大野会長は自らも店舗を経営する。諸国地酒銘酒処「芝の浦」と地酒銘酒処カラオケスポットの「ふあみりい」の二店だ。地域で開業してすでに二七年、吟味した酒と手づくりのオリジナル料理。店もシックで小ぎれいだ。

このため、地域のビジネスマンやファミリー客にも大きく支持されている。支持されているといえば、新芝橋を渡って芝浦工業大学西隣の恵谷ビル地下一階のサントリージガーバー、一階村さ来、四階民芸の里「遠野物語」なども若いサラリーマンやOL、学生たちの語らいの場として、評判のスポットだ。

やはり、街は地域の人たちの語らい、憩いの場を多く集積してこそ、吸引力を発揮するということだが、地域の魅力的なスポットは芝浦工大周辺および四丁目方向に伸びていることも事実で、芝浦商店会はこのエリアに出店する店舗もカバーしており、総店舗数二〇店(飲食七割、物販・サービス三割)で構成している。

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