トップインタビュー 木曽路社長・吉江源之氏 キーワードはお値打ち品の提供

1993.08.16 34号 3面

中部外食界のトップで、名証第二部に上場している㈱木曽路(名古屋市昭和区、052・871・1811)は、去る6月29日の総会後の取締役会で、松原正行社長が代表取締役会長に就任、新社長に吉江源之専務が昇格する若返り首脳人事を決めた。そこで、「将来は東証上場と一〇〇〇億円企業を目ざしたい」と語る吉江新社長に、現状と展望を聞いた。

‐‐まず、社長就任の抱負と基本方針を‐‐。

吉江 当社は松原会長が創業者であり、オーナーです。当然ですが、企業戦略についてはそれほど大きな軌道修正はありません。しかし、やり方、考え方というのは、創業者・オーナーと、その他大勢、われわれも含めて、やはり全然違う話ですね。ですから、そこは意識的にアプローチの仕方を変えないといけない、と思っています。そういうつもりで、社長業というんですか、経営を見つめていきたい。それが、大きな考え方、バックボーンですね。

それと、抱負になるかどうかわかりませんが、最近の企業業績はご承知のように、各社とも厳しいですね。振り返って、足元を見つめ直すといいますか、バブルの時は価格戦略がかなり崩れていたと思うんですね。経費が上がるから、価格に転嫁する。それでもどんどん売れ続けた。だから、あの辺でコンセプトにどこかズレが出たんじゃないか。そういうことをやはり感じていました。そういった視点から、われわれの部門を再チェックというか、創業時の基本的な物の考え方、有り方をもう一度再構築し、再検討する。そして、お客さまとの距離をもっと縮めなければいけない。消費動向は、バブルの時が一〇〇であれば、いまは完全に八〇のところに来ているわけです。われわれはまだ、一〇〇から九〇くらいを行ったり来たりしています。それをいかに消費者ニーズのところまで修正し直すかどうかが、非常に大事なことと考えています。そこで、もう一度、戦略的な部分を見つめ直し、この7月からお値打ち商品を打ち出しております。ニーズをもう一度見つめ直す作業をやるということですね。

それと、バランス経営ということがよく言われますが、当社の場合、木曽路部門が七〇%占めているわけです。それと地中海が二〇%、居来瀬が一〇%。大ざっぱに言えば大体このようなことですが、やはりバランスですね。いま、イエロースプーンを入れれば四つですが、経営資源を公平にという観点から、やはり伸びるところには、それだけ投入していきたい。と同時に、バランス経営のもう一つの意味は、いくら他に力を入れるとしても、やはり経営基盤というのは、あくまで木曽路部門です。これは、やはり強化せざるを得ない。押したり、引いたり、バランスを取りながら、伸ばしていきたい。

‐‐その部門別についてお聞きします。しゃぶしゃぶ店について。現在の五八店を一〇〇店まで伸ばされる計画のようですが……。

吉江 一〇〇店がいいのか、それでは少なすぎるのか、中長期計画について、もう一度見直したいと思っています。ただ、その計画のなかで、一〇〇〇億円の達成と東証上場、これについてははずしていません。

‐‐しゃぶしゃぶ店について、お値打ち感を出される。

吉江 バブル時代の価格戦略で、ちょっとずれていたかなあ、という言い方をせざるを得ない。いま、四〇〇〇円、四五〇〇円、五〇〇〇円というコースを、しゃぶしゃぶを中心にして、一品をつけ、飲み物をつけて、この7月から出しています。お客さまからは非常にお値打ちという声を頂いております。たとえば、四五〇〇円で、ビールと一品を除くと、しゃぶしゃぶの単価を八〇〇円くらい値下げした価格になっています。そのあたりは、われわれがねらった、あるべき姿に近いものになっています。本当にお値打ち商品の提供が一つのキーワードになると思います。

‐‐地中海について。

吉江 やはり競争が激しいですね。昨年あたりまでは競合だと思っていました。競合と競争とは全然違います。バッティングをしはじめています。地中海については、三年前からかなりの経営構造の改革をやり、他社と殆んど同じ利益率を出せるまでになりました。今年から企画スタッフを増強し、そういう意味で本腰を入れて差別化に取り組むことを、今年のテーマにしています。その戦略としては、徹底的にローカルチェーンオペレーション、ローカルチェーンの強味をもっと追求していく。それと、「非効率化」ということがあります。チェーンオペレーションですと、どうしても効率化ですね。これは勿論、非常に大事なことなんですが、一割か二割は、非効率的考え方を持ったチェーンオペレーション、新しいチェーン理論を確立した店舗があってもいいんじゃないか。そこで、非効率化とローカルチェーンをキーワードとして取り組む。ある程度の足、腰ができれば、同じような形でローカルチェーンを、たとえば関東につくってもよい。それがいくつか重なって、ナショナルチェーンということになります。できないことはないですね。

‐‐新メニューは‐‐。

吉江 昨年の暮からビッグハンバーグをやっています。これは二五〇㌘で、あとライス、コーヒー、それにつき合わせサラダを含めて、八〇〇円で提供しています。おかげさまで非常に売れています。八〇〇円から一〇〇〇円の間に、価格帯のニーズがあり、割安感という効果は出はじめている気がします。地中海は役員をトップに据え、組織を強化して再構築しています。差別化が軌道に乗ってくれば、東海地区で五〇~六〇店は出せると思っています。

‐‐居来瀬について、店名を「素材屋」に変更のようで……。

吉江 東京では「素材屋」で一度すでにやっております。居来瀬は名古屋の方向ですから、全国的に通用しない店名です。第一の出発点として、店名をいかに分かりやすくするかです。それは、ナショナルチェーン化の絶対的な条件ですね。それで名前を変えて出す。それが素材屋ということですね。素材屋の店数が居来瀬を上回った来た段階で、素材屋に変更していくという考え方です。将来的には、ナショナルチェーン化で一〇〇店を構想しております。競争が非常に激しい業態ですが、まだ本当にシステム化されたチェーンは少ないですね。まだまだニーズは増して来ると思います。ビジョンとしては将来、一〇〇店、二〇〇店ということです。ここ二~三年は、東京地区で集中的にやりたいと思っています。

‐‐カレーハウス「イエロースプーン」もありますね。

吉江 今期は三店舗で実験していきます。顧客ニーズの収集と経営の仕方を勉強するつもりでいます。

‐‐今期・第一四半期(5年4月~6月)の業況について‐‐。

吉江 まだまだ、底を脱したというような意識はないですね。ひょっとしたら、まだ下りの段階が二~三段あるんじゃないか。そういう心配もしています。

‐‐ありがとうございました。 (文責・石井)

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