日本酒とこれからの料飲店経営 “安い”だけでは限界

1993.05.03 27号 22面

日本酒を中心にした料飲店のこれまでのパターンは、一~二の特定の銘柄に絞った商売の仕方が中心であった。ところが近頃はところどころで各種の優良な地方銘酒を多数品揃えすることで店の特徴を出そうとする店が見かけられるようになった。このような流れはどういう意味を持つのか、また自分の店もそれをやるべきかどうかについて考えてみたい。

まず従来の方法の利点をあげると第一に従来のやり方の方が仕入値が安くなることをはじめとして、問屋やメーカーのさまざまなサービスが得られる。第二には品切れも少く供給が安定している。第三には一度選定すればあと面倒なことがほとんどない、ということで何にしても自分にとっては都合がよい。

ところがこの考え方がすべてに通用できたのは昭和50年代半ばまでである。この時期以後になると地方にいろいろとよい酒を造る日本酒メーカーがふえてきた。同時にこの頃から昨年まで続いてきた特級・一級・二級の級別とは別の実質的な新しい基準のよい酒が出回るようになってきた。その例が吟醸酒・純米酒・本醸造酒等である。

しかしこのような各種のよい酒も初めのうちは特殊な人達にしか知られず、料飲店にとっても特別な場合を除き商売にはならなかった。

ところが昭和60年代に入り、さらに昨年からの級別廃止と進んでくると日本酒に関心のある消費者の大部分が、「世の中にはいろいろな所でいろいろな良い酒が造られている」ということを知るようになった。そういうことでいろいろな旨い酒を飲んで見たいと思う消費者が日本酒党を中心に急速にふえてきた。

ただこれらの酒はある程度お値段も高くなるから沢山飲む人達には売りづらくなるのではという心配があるが、これについてはこのような酒を飲む客は昔のように浴びる程飲んだり、酔っぱらう程飲む人達ではない。大部分が日本酒をおいし肴と一緒においしく楽しく飲む人達である。だから一杯の値段が多少高くても彼等にとって大きな負担にはならない。それどころか一升びんを買うのに比べ、飲みたい時に飲みたい酒を手軽に選んでワンショットのパターンで適度の量を飲めるのは実質的には割安であるとの価値感もでてくる。

このようなことから地域特性のある様々な日本酒を品揃えすることは新しい時代の店の戦力になりつつある。だからといって必ずしも吟醸酒や純米酒のようなレベルのものばかりを品揃えしろという訳ではない。一升びん詰で一六〇〇円から二五〇〇円位までの間で結構よい酒がある。

ただこのような選択はどこの店にも通用するという訳ではない。アルコール飲料はビール中心。日本酒は少しくらい味が落ちても銘柄を絞って安い値段で提供する。日本酒を飲むお客様は日本酒でさえあれば安い方がよいと思うレベルのお客様をターゲットとするという店には向かない。しかしこのような店でもお客様の潜在的ニーズは良質の様々な日本酒を求めているということを知っておかなければなるまい。

値切って仕入れたお酒をさらに徳利に七分目入れて正価で売るような商売の時代は既に去ったと知っておかなければならない。そのような商売をする店はお客様の信用を失ってやがて衰退する。大切なのはお客様の立場に立った誠意である。その誠意を正面から表わし、その代りお値段も多少高いといった方が通りがよい時代になった。

ただこのようなお酒を売るには料理の方もよく考えて、酒と料理のマッチングの勉強をしておかなければならない。またお酒の仕入れについては値切ることばかり先に立てるようでは商品は集まらない。仕入先もビールや普通のナショナルものばかりに中心をおく酒販店では商品が揃わない。勉強熱心な専門性の高い酒販店を選ぶことが必要になる。

最後にいいたいことは優良な日本酒の品揃えはそれだけでお店の戦力になる時代になったということである。これを生かすには店主の方も利酒能力を高めること(品質の理解力)、冷蔵ケースの設置等品質管理に留意しなければならない。

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