’93業種別展望・不況打開策 イタリア料理=高級志向は自滅の道に

1993.01.04 19号 26面

バブルがはじけて、都心繁華街のフードサービス業で最も打撃を受けたのは俗に、しゃれた「イタメシ屋」と呼ばれて、一時大ブームとなり、高級店が続々とオープンし、女性がウンカのごとくおしよせた「イタリアンレストラン」ではなかろうか……。

イタリア料理といえば、日本人にとって、西洋料理のなかでも最も親しみ易いタイプの料理の一つであり、“スパゲッティ”“ミートソース”“ナポリタン”…の世界。いわば、立ち喰いそば的感覚の、ごく気軽な店であったはずだ。

これが、バブル経済の膨張とともに、いつのまにかフルコースで楽しむ‐‐というフランス料理的なぶった感覚のもの~と方向転換してしまい、あまりにも高級化志向を目指してしまったため、バブルの崩壊とともに自滅しはじめたわけである。

あまりに「専門店化」「高級化」し、ボリすぎたためにおきた自壊作用をおこしたにすぎない。

イタリアンレストランとは、本来、カジュアルであり、素朴でワイルドで、いわば「居酒屋」感覚で、“食べながら”“飲みながら”の“ながら感覚”でワイワイ楽しんで味わうべきものであるはずだ。

デザイン的にいえば、九〇㎝角のダイニングテーブルではダメで、ベンチスタイルや、無機質でなく、有機的な計算されていないラージテーブルのような“楽しい要素”を持つことが、これからイタリアンレストランには必須であるべきだ。

あの陽気で楽しいイタリアン人気質をそのまま反映した形態を表現、演出したものであるべきである。

メニュー的にも、なんでもごく気軽にチョイスできるアラカルト的なものを中心にした方が、これからのイタリアンレストランには良いだろう。

しかし、ここで重要なポイントは、いくらカジュアル志向になるとはいっても、他店との確固たる差別化を目指して、専門店志向は明確に打ち出しておきたいことだ。

不況といわれるイタリアンレストランのなかにあって、生き残っていくためには、フランス料理屋的な重く堅固なカブトは脱ぎ捨てなくてはならないものの、“奥の深さ”ともいうべき“本物”まで捨て去ってしまってはいけないことである。

基本的に原点回帰ではあるものの、押えるべきところはキチンと必ず押えていく姿勢こそ大切。ただラフでカジュアル志向になればよいというわけではない。

私の専門であるインテリアデザイン的には、従来のいわば貴族趣味的なものではなく、いわば自然回帰というか、天然素材を活用した“ウッディな感覚”が、これからの主流になると思われる。例えば、大理石もきちんとはるのではなく、“乱張”というか、ラフなイメージというか、ワイルドな空間構成が必要と思われる。

こだわりをもったイタリア料理のメニュー開発を目指した専門的な志向を残しながら、カラフルで、明るく、かつ、健康的で、カジュアルな店にしたい。

いずれにせよ、イタメシ屋は、新しい時代を迎えつつあることを強く認識しておきたい。

(インテリア・デザイナー‐KIDアソシエイツ代表取締役 北原進)

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