厨房のウラ側チェック(5) 緊急レポ「貝毒について」
今回は、「厨房内に潜む細菌達」のその2を連載するつもりであったが、4月下旬に広島県で「カキの貝毒を検出したため、貝毒への間い合わせが多数、当藤洋にあり、急拠読者に貝毒についてお話をすることにした。
貝毒は、食中毒の分類において、自然毒性食中毒の中に入り、そのなかでも動物性自然毒の仲間になる。この動物性自然毒で有名なのが、フグ毒であるが、貝毒は№2に位置している。
貝毒は、最近の一〇年間で患者数七〇〇名強と、死亡者一名を発生させている。この貝毒には、二つのタイプがあり、神経麻痺を主徴とする「麻痺性貝毒」と下痢、吐気及び腹痛を発症させる「下痢性貝毒」とがある。
まず、麻痺性貝毒から述べていこう。麻痺性貝毒は、原因毒としてサキシトキシン( Saxitoxin )の同族体で、ほとんどの場合は混合物として存在する。これらは全て、プランクトンの渦鞭毛藻によって生産され、二枚貝に蓄積される。現在、この渦鞭も藻の毒生産性種は Alexandrium tamarense. Alexandrium catenella. Gymnodinium catenatum の三種が日本で確認されている。
これらの毒生産の原因となるプランクトンは、日本全国に発生しており、また、世界中に分布している。特に、アメリカやカナダでは被害が多く、監視体制をとって貝の可食部一〇〇g当り Saxitoxin 八〇μgを超えた場合は、貝類を採ったり、移動や販売などを禁止している。
もちろん、わが国でも、二枚貝の主産地では定期的にモニタリングして、規制値(可食部一g当たり4MU以上)を超えた場合には出荷規制の措置がとられる。したがって、市場経由の貝類は、安全性では問題がない。
日本における二枚貝の毒化は、ホタテガイ、ムラサキイガイ、マガキ、アサリ等から発生している。麻痺性貝毒の症状としては、フグ中毒に大変よく似ている。食後30分ほどで口唇部、舌、顔面等がしびれ、そして徐々に四肢に広がり、しびれが麻痺に変わり、言語障害、流涎、頭痛、口渇、吐気、嘔吐などが現われて、最後に呼吸麻痺で死亡する。死亡は12時間以内で起こり、これを超えると回復に向かう。
このような症状を起こさせる Saxitoxin の同族体の検査について、少し簡単にふれてみよう。まず、検体はむき身で二〇〇g以上必要。その検体をホモジナイズして、塩酸を加え、PHを3から4に調整し、沸騰湯浴中で加熱したものを毒性原液として、それを健康な四週齢の雄マウスに腹腔内注射し、致死時間が5~7分の範囲に入るように実験し、当該検液の毒力(MU/㍉㍑)を求める。MUとは、マウス単位で、1MUは体重二〇gのマウスを15分間で殺す毒力と定義されている。
次に、下痢性貝毒だが、貝の毒化は麻痺性貝毒と同様、過鞭毛藻のある種の毒生産種( Dinophysis fortii )プランクトンにより、二枚貝の中腸腺に蓄積される。毒化の時期は4月から8月頃まで続き、日本では関東から東側に被害が多いようだ。
この貝毒による症状は、下痢、吐気及び腹痛を主徴としているが、発熱はなく、食後4時間以内に発症する。しかも、下痢性貝毒には死亡例はなく、全て三日間で回復し、予後は良好といわれる。
この貝毒は、日本以外ではオランダ、フランス、スペイン、ノルウェー、スウェーデンの沿岸に発生し、ムラサキイガイの中腸腺に蓄積している。
有毒成合は、ポリエーテル化合物( Okadaic acid. Dinophysistoxin‐1,3. Pectenotoxin1‐5 )といわれ、アセトンで貝の中腸腺から抽出し、減圧濃縮し、さらにジエチルエーテルで減圧濃縮したものを一% Tween 液に懸濁して毒性原液とし、それを麻痺性貝毒と同様に、実験動物を使用して、毒力を測定する。この貝毒の出荷規制値は、可食部毒力が、一g当り〇・〇五MU以上になった場合である。
以上、二タイプの貝毒を説明してきたが、フグ毒と同じで、熱処理で分解をしてくれず、やっかいな毒なので十分に注意し、食材の購入時には、市場から購入することである。また、海外からの購入には、定期的な検査を添附させることがよいだろう。
食品衛生コンサルタント
藤 洋