低価格時代の外食・飲食店 「アサヒビールシステム」

1997.03.03 122号 4面

ビール業界はアサヒビールの「スーパードライ」攻勢で、特にキリン、アサヒ、サッポロビールの三社間でし烈なシェア争いが展開されている。この三社はかつてはキリンが六〇%台のシェアでトップ、二位がサッポロの二〇%強、アサヒが三位で一〇%以下というランキングにあったが、スーパードライの登場で、現在はキリンがトップの地位にあるものの、シェアは五〇%弱、二位は入れ替わってアサヒが約三〇%、サッポロは三位に転落し二〇%を切る。こういった背景にあって、ビアホール(レストラン)など飲食事業を展開するアサヒビールシステム(本社=大阪)とサッポロライオン(本社=東京)の両社は、店舗展開の面でもライバル関係にあり、出店を競い合っている。しかし、飲食事業では出店数、売上げともにサッポロがアサヒに大きく差をつける状況となっている。両社の事業、出店戦略をリポートする。

アサヒとサッポロビールは現在こそライバル関係だが、この両社はもともとが同じビール会社だった。明治22年、大阪・吹田の地に大日本麦酒株式会社が誕生した。

この大日本麦酒が両社の母体だ。ビールはもちろんドイツから学んだもので、明治の西洋崇拝のハイカラブームと、大正、昭和の軍需景気に誘発されて需要が大きく高まった。

この結果、大日本麦酒は昭和20年前後まではシェアが七〇%を超えるほどの独占企業に成長した。しかし、敗戦後の昭和24年、GHQの経済政策で企業分割されることになった。

東京を軸とする東日本の市場をテリトリーとするのが日本麦酒(サッポロビール)、大阪主体に西日本が朝日麦酒(アサヒビール)。現在の二社に分割されることになったのだ。

分割当時のアサヒのシェアは三六%もあったが、それがスーパードライが登場するまでの昭和62年ごろには八%までシェアが落ちていた。

「コクがあってキレがある」。今まで市場になかった商品。消費者の支持を大きく得たスーパードライは、アサヒを瀕死の重症から見事によみがえらせることになった。

アサヒビールシステムは文字どおりに、アサヒ直系のビアレストラン企業だ。

前身は大日本麦酒時代のビアホール経営会社・共栄株式会社で、二分割時に朝日共栄株式会社として再出発、そして昭和62年3月に現在の社名に変更した。

一方のサッポロビールは日本共栄株式会社としてスタートし、昭和41年のサッポロ共栄を経て、昭和54年に現在の社名に変更している。

生まれた母体は同じでも、この両社は企業分割後は別々の道を歩み、現在では好まずともライバルの関係に位置しているのだ。

アサヒはビアレストラン「アサヒビアケラー」「スーパードライ」を二本柱に、季節店舗のビアガーデン、日本料理、中国料理店を展開する。

昨年12月末現在でこの店舗数は五六店。この出店数はここ数年は平均で年間二、三店のペースだが、昭和24年からの店舗展開とすると、このトータルの出店数は少なすぎる。

サッポロライオンは、昨年6月現在でも直営一九五店を展開し、アサヒはサッポロの約三分の一程度の出店にとどまっている。

アサヒの店舗展開は、本社が所在する大阪エリアに片寄っており、出店エリアは限られている。

市場が大きい東京エリアでの出店は少なく、わずかに五、六店舗を展開しているのみだ。

「出店意欲がないわけではありません。九六年は大阪りんくうタウン三店の出店を含め、新規に六店を出店しておりますが、やはり集客の期待できる好立地、好物件となりますと、競合も激しく、投資コストも大きくなりますので、簡単にはいかない面があるのです」(アサヒビール(株)常務取締役管理本部長井上晃良氏)

東京エリアでの出店は、現在においては手薄だが、これは、グループ企業のニューアサヒ(株)(本社=東京)が市場をカバーしている面もあるので、間接的には関東での出店も具体化しているということだ。

もっとも、ニューアサヒの出店も三〇店を展開しているにすぎず、会社設立の昭和31年からすると、ビールシステム同様に、店舗数は伸びていない。スーパードライの登場、スーパードライの勢いほどには出店が加速しないということだが、サッポロライオンと比較する限りにおいては、レストラン分野の事業展開は不完全燃焼という印象だ。

九六年12月期は売上高八五億円、経常利益一億四〇〇〇万円を予想しているが、既存店の伸び悩みはあるものの、新規出店で予想数値をクリアし、増収増益となる見通しだ。(前出井上管理本部長)

アグレッシブな経営でいくか、収益第一主義のスタティックな経営でいくかは、その企業の体質および企業トップの考え方によるが、アサヒビールの場合は手堅い“住友商法”で地道に歩みを進めていくということのようだ。

◆会社概要

・企業名/(株)アサヒビールシステム(昭和62年3月、商号変更)

・チェーンブランド/アサヒビアレストラン「スーパードライ」、ビアレストラン「アサヒビアケラー」、ほか

・創業/昭和11年11月

・会社設立/昭和24年9月

・本社所在地/大阪市中央区北浜一‐五‐五(Tel06・231・6441)

・資本金/九億一五〇〇万円

・取締役会長/樋口廣太郎

・代表取締役社長/高橋一男

・従業員数/二九七人

・事業内容/ビアレストラン、ビアガーデンなど飲食事業の展開

・出店数/五六店舗

・売上高/八一億六〇〇〇万円(九五年12月)

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