トップインタビュー チタカ・インターナショナルフーズ・塚田幸好社長
‐‐アトムの「かつ時」、焼肉屋さかいの「とんかつ本舗」が参入して、中部で「とんかつ戦争勃発」ともいわれていますが。
塚田 確かですね。「とんかつ知多家」の業績が横ばいなのも、原因はそこにあるのでしょう。でもこれは一時的な現象で、お客様には再び戻ってきてもらえると信じています。これまで「選んでいただける店づくり」を基本にすすめてきました。
今まさに、われわれはお客様にふるいにかけられている時。厳しいけれど、利潤追求に走りすぎ低価格で数字合わせをしようとすれば、必ずお客様に見抜かれふるい落とされますから。
‐‐では、この状況を打開するには今後どうしようとお考えですか。
塚田 サービス業に関わっている以上、価格は単にひとつの要素にすぎません。われわれの本来の目的は、お客様に満足感を与えること。とはいえ、お客様だって安ければ喜びます。ですからもちろん価格を下げる企業努力はしますが、価格競争には加わるつもりはありません。Q&S(クオリティー&サービス)で集客を図るべきだと考えています。
トップが低価格路線を打ち出すと、現場では料金を下げればお客様が来てあたりまえという機運が流れます。サービスがおろそかになるのではと、私にはそれが一番怖いですね。
‐‐では、他のとんかつ店との差別化はというと。
塚田 とんかつはどうしても脂っこいイメージがつきもの。ですからこの高齢化社会、お客様の健康志向にマッチするような考えがなくてはなりません。うちでは、最初から肉の脂身部分をすっかり取り除いてますよ。もちろんコストはかかりますが、必要経費だと考えていますから。
セールスポイントは「肉の柔らかさと衣のざっくり感」。それに清潔で落ち着いた雰囲気の店づくり。カップルからファミリーまで年齢もさまざま、幅広い客層が来てくれますよ。
‐‐FCビジネスとしていろいろな業態を手がけていらっしゃいます。新業態開発の計画は。
塚田 新しいことは当分ひかえます。ただし、自社展開中の「とんかつ知多家」と「パステル」の店舗展開は積極的にやります。というのも、今わが社は変革の時。外に目を向け広げることよりも内の充実を図ってゆく考えです。
まずは業績を上げることより、人材を集め育てることが先決。企業は人なり、という言葉もあることですし。店長が有能だと必ず利益は上がります。パート・アルバイトの定着率が良く、お客様に安心感を与え、それが利益を上げることにつながっています。
‐‐今年の新入社員は何人くらいですか。
塚田 最近は、とても優秀な学生が入ってきてくれるんです。昨年は七〇人、今年は四〇人。たくさん集まりました。入社後レストランサービス業の先進国アメリカへ、研修旅行へ出かけてもらうなど、やる気のある人間には積極的に伸びてゆけるシステムを備えていますよ。イタリアンブームという時節がら昨年は、自己負担ですがイタリア研修を計画しました。こういう勉強の機会をできるだけ設けていきたいですね。
‐‐ほかには、どんな変革をお考えですか。
塚田 「小さな本社」を理想に、高度成長で膨張気味の本部体制を見直します。従来の甘い体質ではいけません。二一世紀に生き残るには、「おのれをひかえ、サービスを厚く」の精神が必要。お客様に十分満足してもらえるサービス体制が一〇〇%整うまで、社員にはしばらくの間辛抱してもらわなければならないでしょう。うちの企業理念は「人の幸せづくりのためにある企業」。必ず時がたてば彼らの幸せを確保できると信じています。
‐‐お話をうかがってゆくと、人の関係を大切にしている姿勢が見受けられます。
塚田 そうですねぇ。FCビジネスの基本は信頼だと思っているんです。フランチャイジーの立場だとザーに一〇〇%同調することが必要。絶対的な信頼をおくという気持ちが大切なんですね。それぞれ成功した企業とのいいおつき合いの中から、学ぶべきことはたくさんあります。そんな方々が全国各地に広がっていますから、私の交友関係は豊かですよ。迷ったり困った時にすぐ電話できる仲間がいるのはいいですね。
‐‐人間関係が財産ですね。
塚田 そう思います。仕入先などすべての協力業者もまた、大事なお客様。長続きできる人間関係を築きたいと思っていますよ。値打ちにしてもらうことが商才という考えがありますが、これには反対。お互いがともにのびてゆくことの方が大切です。
世界に目を向ける広い視野を持ち、先見性と実行力がありコストダウンの努力ができる相手。そんな相手とがっちり組んで、信頼関係を築ければと思います。
■所在地=愛知西春日井郡西春町沖三〇、Tel0568・23・3301(代) ■一九〇二年に酒類小売商「知多屋嘉助商店」を創業、一九八〇年、関連五社を合併して現在の社名に。「とんかつ知多家」「パステル」を中心とした自社オリジナル店のチェーン展開、大手FCと提携しフランチャイジーとして店舗展開を行っている。また、食品製造・販売部門ではカレー、各種ソース、スープなどを手がけ特に味にこだわったカレー商材では伸びを示す ■現在の店舗数=店舗総数一二一店舗(うちFC六店舗)、「とんかつ知多家」三一店舗(うちFC六店舗)、「パステル」(直営のみ九店舗) ■業態数=九(業務用食品、小僧寿司、ケンタッキーフライドチキン、シェーキーズ、パステル、居酒屋、委託喫茶部門、とんかつ知多家) ■従業員数=四〇八人(2月末現在) ■昨年度売上げ=一三五億四〇〇〇万円(うちFC六億一〇〇〇万円)
=取材メモ=
町一番のガキ大将で、生キズが絶えなかったという少年時代。そのころのリーダーシップと信望の厚さは、今に通じている。周りからは「カタブツ過ぎる」と言われるほど仕事一直線。一言一言確かめるように話す言葉から常に「お客様の満足のために‐」が飛び出す。企業理念である「人の幸せづくりのためにある企業」スピリットを地でゆく。
若いころから社長代理として業界団体の会合に出席する機会に恵まれ、大手のトップの方々との出会いにより成長させてもらった、と話す。FCビジネスを通してのネットワークが、大切な財産となっている。
ほとんど仕事に明け暮れる毎日だが、ヒマを惜しんで読むのはやはりビジネス書。来るべき自社の変革期に備え学ぶことは山ほどある。昭和9年、岐阜県生まれ。
(文責・片山)