飲食店成功の知恵(100)繁盛編 経費削減の考え方
これだけ景気の低迷が続けば、経費の削減くらいいわれなくてもちゃんとやっている、というお店が多いだろう。お客の財布のひもは固くなる一方なのに、諸経費が下がってくれるわけではない。外食は消費者にとって最も身近なレジャーなのだが、それゆえに真っ先に消費者の「経費削減」の対象になってしまうという宿命にある。
こうなったら、無駄な経費を出来るだけ削減して、少しでも利益を確保していかなければならない。だれでもそう考える。ところが、一見当たり前のこの考え方に、実は大きな落とし穴が潜んでいる。というのも、何をもって「無駄」とするのか、そこに難しさがあるからだ。
例えば、真夏の暑い盛りなのに、お客が入ってくるまでクーラーのスイッチを切っている。冬になれば、暖房費がもったいないからと、設定温度を極端に低くする。おしぼりを省略するだけならまだしも、食事を出しているのに紙ナプキンすら置いていない。お客が少ないと店内の一部の照明を消してしまったり、支障が出るギリギリまでトイレの流水量を少なくする、などなど。すべて、実行しているお店にとっては「無駄な経費」の削減策である。
しかしこれでは、お客はたまったものではない。快適な居場所を求めて飲食店に入ったのに、かえって不快な思いをさせられるのだから。おまけに、クリーニング代を惜しんで汚れたユニフォームを着ていながら、そんなことには一向に無頓着という顔をされては、だれだって「こんなお店、二度と入ってやるものか」と思うに違いない。
もちろん、今挙げたようなことをすべてやっている、というお店はさすがに少ないだろう。しかし、一つや二つ、思い当たる節があるというお店は、案外多いのではないだろうか。経費の削減はたしかに、今の時代の経営者にとって不可欠なテーマである。だから、無駄・ロス退治に敏感になるのはいい。ただ、その対象や削減の仕方に問題があることが少なくないのだ。
経費の削減を考える時一番大事なのは、それが必要な経費かどうかということだ。何に必要なのかといえば、売上げを生み出すためである。
例えば、商品を作るのに材料費がかかるのは当然だが、これを不当に削れば当然、品質やボリュームに問題が生じてくる。そして当然、お客離れが起こる。だからいつの時代でも、材料原価率は飲食店にとって最大の問題になる。
しかし、飲食業は単なる食品販売業ではない。サービス業である。商品プラス、サービス、雰囲気の三つの要素のトータルでその価値が決まる。ところが、経費削減に敏感になりすぎると、得てしてサービス、雰囲気面での経費が「無駄」に見えてしまいがちだ。つまり、サービス業としての本質を見失ってしまうのである。その経費あっての売上げなのに削ってしまうのでは、お客が支持してくれるはずもない。
たしかに、水道光熱費は大きな負担である。しかし実際には、厨房関係でロスが出ていることが圧倒的に多いのだ。調理手順や作業の仕方を徹底的に改善すれば、かなりの削減になることを知ってほしい。ふたをしないでお湯を沸かすだけでも、相当なガス代のロスなのである。
また、従業員のローテーションを見直したら、一人分の人件費が浮いたというケースも珍しくない。クリーニング代がもったいないのなら、自分で洗濯してアイロンをかければいい。
今問題なのは、そういう自分で自分の首を絞めるようなことをしていて気付かないお店が増えていることなのである。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行