関西版:シリーズ・オイシクする人 小西酒造・松川弘常務
日本の清酒を代表する日本最古の蔵元、「白雪」小西酒造(株)(兵庫県伊丹市、0727・75・1524)の小西新太郎社長は、低迷から脱却できぬままに呻吟する業界にあって常に新しい感覚で挑戦し続けているが、本年も本格的な需要期を前にして、「白雪は価格競争ではない、価値競争を提案します」と宣言、「品質向上による日本酒の魅力訴求を推進する」としたが、その大いなる理念を支える同社の生産・技術陣の総括責任者が、日本酒をオイシクする人、常務取締役生産本部長・松川弘氏である。
伝統の民族酒「日本酒」は、“日本全国至る所に銘酒あり”の状況となっているが、その銘酒たる由縁をはかる基準として、わが国では唯一の全国規模で行われる国税庁の新酒鑑評会が果たしてきた役割は大きい。同鑑評会の最高の栄誉「金賞」は文字通り金色に輝く栄誉であり、消費者のハートにストレートに通じる切り札でもある。
西の酒都、広島県「西条」に所在の地を移し、醸造試験場から醸造研究所に名を改め再開された「全国新酒鑑評会」は、今年が二年目で、新たな意識のもと、全国から寄せられた自慢の新酒を真摯に鑑定、その成果を公表し一層の品質向上を願いつづけてきた。
昨年、同社は社史に輝かしい足跡となる鑑定会出品全蔵(五蔵)が金賞を受賞、改めて白雪の声価を高めたが、本年も至難とされる二年連続の全蔵受賞の栄冠を獲得、白雪に対する関心事の高まりとともに、「金賞請負人松川WHO」の声も高まった。
今や名門中の名門白雪の屋台骨を支える重要な役回りにある松川氏は、企業が唱える理念の具現者たらんとして日夜指導と研鑽に明け暮れており、一段と大輪の花を咲かせるものと周辺の期待は高まるばかりである。日本酒をオイシクする人として最初に登場するのはこの人をおいてはないと、登場願った。
酒(日本酒、焼酎、ビール)造り一筋の人生を振り返っての第一声は、「波乱万丈の人生」だった。
波乱万丈とは、その軌跡をたどるには幾多の紙数を要するということでもある。悲しいかな今回は限られた紙数での紹介とせざるを得ず、波乱万丈人生のコクを薄めての報告となる。
終戦時、海軍少佐の父と海軍軍人の家の出である母の下に昭和12年、軍港佐世保で誕生。終戦を境に悲運の一家となる。数年を経て父は無事帰還したものの、戦犯として巣鴨に収監され、一家は疎開先の熊本県で、飢えとの闘いの日々を余儀なくされる。
辛酸の少年期だったが地元の蔵元にその英知を見い出され、学業・醸造学研鑽の途を拓いてもらう。九州の醸造業界に有能な士と認められ、西海酒造、雲海酒造、霧島酒造と日本酒ばかりでなく上伸を続けた本格焼酎の飛躍にも貢献、その盛名は中央においても知られるところとなり、斬新な発想で伝統産業の再構築を図る小西酒造(株)に請われて、活躍の場を日本酒主産地に移すこととなった。
平成4年、小西酒造(株)入社。人心も設備も一新するところから取り組み、修業時に寝ずの番をして教えを請い、身につけた最高峰の酒「吟醸酒」こそが、酒造りの原点と技術陣を徹底的にしごいた。
全社的な意識改革も軌道に乗り始めたとして、平成5年に小西酒造「新五ヵ年計画」がスタート、営業、生産、管理の各部門がそれぞれ目標を掲げての発進となったが、生産部門においては三年目にして早くも目標を達成、社内表彰の銅賞を獲得、そして意欲はますます充実し四期目の今年は銀賞受賞、総仕上げとなる来年は見事金賞を獲得しようと全員が心を合わせているという。
この金賞を得るためには記録的な三年連続出品全蔵金賞受賞の金字塔を打ち立てることと誓い合っており、燃えたぎるまなざしの現場の雰囲気に触れればこの大快挙達成も間違いないと思えてくる。
とはいえ、いうまでもなく金賞ばかりが酒造りでなく、いかに多くの消費者に愛飲されるかが酒造りに携わっている者の使命であり、マーケティングも含めて永遠のテーマに不断の努力をしている。
技術者自身の自負が影響しがちな酒造り、新製品造りではなく、消費者がウマイという酒、何をもってウマイとするか、常に新鮮な視野、新鮮な感覚をもって酒造りに向かい合っているという。
困難な時代、あえて伝統を見直すため“原点”に立ち戻るところから始め、伝統技能に裏打ちされた本質的な利点をさらに磨く、そして飲んでもらえるようなマーケティングの展開に合わせた魅力的な酒造りをするべきだとしている。
原酒でありながら低濃度のウマイ酒、楽しみながら健康にも寄与する酒、未開発の分野が多く残されており将来は決して暗くはないと力説する。
お願いです! もっともっとオイシクして下さい。