業界人の人生劇場:康和食産・古山邦男社長

1998.02.16 146号 11面

古山邦男社長のラーメン業界入りは一七年前の昭和57年。当時三八歳。かつては年商三億円ほどの町工場を経営していた。

「一八歳で町工場の見習いに入り二六歳で独立。玄関口の鉄門をつくっていました。大手企業の下請けが順調で最盛期は従業員が四〇人ほどいましたね」

「ところがオイルショックで受注が止まり、手段選ばず取引先を増やしたら不渡りを二度つかみ、あえなく倒産です」

三五歳で無一文。国分寺の居酒屋に夫婦共働きで見習いに入り、飲食業界にデビューする。

「手形商売に懲りたから現金商売にくら替えしようと。居酒屋の見習い時代は賄いつきだから給料はほとんど貯金できました」

「一年後に独立。居酒屋『酔処八八』を開業したところこれが大繁盛。経営者時代の接待経験と食べ歩きが接客サービスやメニューづくりに役だって宴会予約が好調でしたね」

その三年後、またも事業欲がうずいたのかラーメン店の多店舗化を考える。

「女房の妊娠をきっかけに夜の商売は止めようと思いまして。なによりもう一度事業を起こしたいという気持ちが先走りましたね」

「なにをやろうか試案の矢先、女房のつくった沖縄そばのだしにヒントを得まして。それでラーメンを始めようと。それから一年間は立地探しとラーメン食べ歩きの毎日。東京近郊をバイク一台乗りつぶすほど走り回りました」

「目当ての立地はドライバー相手に二四時間商売できるところ。多店舗化を目指していたから、とにかく一号店は爆発的に売れそうな立地を確保しようと。なかなか見つからず、谷原の物件(珍珍珍の一号店)を探し当てた時は身震いするほど喜びました。帰って宴会を開いたほどです」

「ラーメンについては(1)一〇人が食べて六人がおいしいと感じる味(2)食べ終えてコップ一杯の水が欲しくなる(3)他店に無いオリジナル性――志向。現在に至る『トンコク』『江戸だし』の二種類を開発しました」

昭和57年、東京・練馬の関越自動車道谷原インター近辺、目白通り沿いに「珍珍珍」一号店をオープンする。

「一号店は店舗坪八・五坪カウンター席一二席で従業員は私一人の小規模店舗。営業時間は朝6時から夜8時。仕込みや清掃時間を含めると朝4時から夜10時まで。一日に二五〇食から三五〇食をさばきました。当時の睡眠時間は四時間。働いて寝るだけの生活でしたね」

直営四店舗になった三年後、大繁盛からFC加盟希望者が訪れるようになる。

「FC展開は開業当初からの目的。しかしラーメンFCの場合、店舗調達の食材が多いからジーをまとめるのが難しい。ジーが自分同様がむしゃらに働けるかどうかも分からない。たれと麺を供給するだけのチェーン展開(既存パターン)だとすぐに行き詰まると思い最初は足踏みしました」

FC展開のきっかけは“和風ギョウザ”の開発。まねのできないギョウザで多店舗化に踏み切る。

「ラーメンだけだと弱いから、なにかもう一つ脇を固める商品が必要かと思いまして。それで絶対まねのできないギョウザを開発しようと。企業秘密ですから具体的にはいえませんが、魚介の練り物を混ぜてみたんです。すると和風感覚でとてもおいしい。このギョウザの開発でFC展開を決断したわけです」

順調に多店舗化し、現在は関東を拠点に一三九店舗を展開。店舗の末端年商は六九億円に達する(本部年商一二億円)。自信のサイドアイテムもギョウザのほか、ウナギの蒲焼き、鶏もも焼き、カレーにまで種類を拡大。自社CKおよび中国には合弁会社を六社設立し、自社加工、レトルトPB化を推進している。もちろん麺、たれ、スープも同様にである。

いま古山社長が注力しているのは大筋四項目。(1)女性客、ファミリー客を増やすための既存店リニューアル(2)新業態「ラーメン居酒屋」による地方展開(3)健康志向を踏まえたカロリー表示の推進、野菜のボリュームアップ(4)次期主力アイテムとして焼きそば、洋風ヌードルの開発――などである。

「FC展開当初の店舗がリニューアル時期を迎えています。食材の自社加工(レトルト)体制が整い店舗の現場作業が省力化しているので、リニューアル店舗は厨房スペースを三割狭め、その分席数を従来よりも三割増やしています。テーブル席の新設で女性客やファミリー客を増やすのが狙いです。昨年リニューアルした店舗は前年同月比二〇~三〇%増と出足好調です」

「新業態の『ラーメン居酒屋』は地方出店に向けた試金石。宴会やアフター5需要に応える二毛作業態として一品料理や小上がり席の充実を図っています。ラーメン鍋などラーメン特化の料理が特徴ですね」

「焼きそばと洋風ヌードルは開発済み。アイテム化のタイミングを見計らっている最中です」

ラーメンチェーンの一翼となった「珍珍珍」チェーン、そしてそれを牽引する古山社長。新たな挑戦はこれからも続きそうだ。

◆康和食産(株)/代表取締役・古山邦男/本部所在地・東京都練馬区高野台二-一三-一六、電話03・3995・3301/設立創業・昭和57年2月/資本金・一二〇〇万円/従業員・四八人/ストアブランド・「珍珍珍」/店舗数・一三九店舗(直営四、FC一三五)/事業内容・ラーメンチェーン「珍珍珍」の総本部、FC展開と直営店の運営と食材の製造卸など/関連会社・(有)コーワフーズ、中日友好紹介(株)

◆古山邦男氏=昭和18年、満州生まれの五五歳。姉と弟の三人兄弟。戦後、父親の故郷東京に移住。少年期、青年期は高田馬場界隈の悪ガキとして名をはせたとか。社会人からは文中通り。

趣味はゴルフでハンデは二〇。酒は毎日ビール大びん二本か日本酒二合。タバコはマイルドセブン一日三〇本。

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