うまいぞ!地の野菜(2)福島県現地ルポおもしろ野菜発見「アザキ大根」
降り積もった雪を払い、引き抜いた大根は、身の丈二〇㎝、直径四~五㎝の円錐形。青々と力強く張った葉を付け、無数に張り出すヒゲ根は朝鮮人参を思わせる。
「ここらではどこにでも生えている野大根ですが、五年がかりで栽培体系にしたものがこれ」と泥つきの「アザキ大根」を差し出す金山町活性化センターこぶし館長の青柳一二さん。
「アザキ大根は、大根の名を持っていますが、食用大根とは似ても似つかぬほどかたくて水分も少ない。おまけに大変な辛さから“人をあざむく”あざけ大根といわれながら、人に食べられることなく野っ原に自生していたんです」
六年前、同館がスタートした時、青柳さんは、地域の特産物としてアザキ大根を会津名物「高遠そば」のつけ汁に利用しようと思いたった。
只見川の上流、大沼郡金山町にある沼沢湖周辺は、アザキ大根の群生地として知られる。火山灰台地にして標高五〇〇m、冬の積雪二mという豪雪地帯。厳しい環境だが、そば畑、桐畑など日当たりが良く、耕地された場所を選んで生育している。
「殻がかたいため自然に落ちた種は、そのままいつまでも冬眠しています。ところが、土を被せてやると野大根の本性を現し、芽を出し、根を張る不思議な性質をもった奴ですよ」
昨夜の雪のため白く盛り上がった畝から、青柳さんは、たくましく張った根を気遣いながら満身の力で大根を引き抜く。
「根より葉がフサフサ広がり、皮はかたく頑固そうですが、清涼感ある香りと、なんといっても野性味ある辛みは、うちのそばには欠かせないよ」
自ら「こぶし館」でそば打ちをしているだけに、薬味となるアザキ大根には並々ならぬ思い入れがある。
野生から栽培化へは、大根栽培にかけては大ベテランの押部伝さんの協力を得、試行錯誤の連続だった。今では夏播き、秋収穫とハウス栽培による早播き、早収穫のサイクルに成功。さらに今年は、5月半ばまで残る雪を利用した自然の貯蔵庫、雪囲い「カベヤ」を使い、収穫時期を延ばし、端境期を縮めようと新しい挑戦を試みている。
また、肥料についても、自然に近い栽培法として生ゴミ、鶏ガラ、魚の骨、糠などに土中菌を混ぜ合わせたぼかし肥料を使う。
「収穫の計画化にはまだまだ時間が必要ですが、今後は、食べ方もそばとのセットだけではなく、ステーキ、焼き肉、刺身などにも利用していきたいですね」
当初一反歩だったものが三反歩になり、収穫量も約二万五〇〇〇本になった。ここで食べた味が忘れられないから送ってくれという要望が多くなり、今では宅急便で全国送付も行うようになった。
青柳さんと押部さんが栽培化に成功したアザキ大根は、今後、金山町のイメージとして推し進めていくのか、農業の事業化としていくのか、後継者がいないだけに気がかりである。
■生産者名=青柳一二(福島県大沼郡金山町大字中川字上居平九四九-一、「こぶし館」電話0241・55・3334、FAX0241・55・3023)
■販売方法=宅配。「こぶし館」に直接申し込む。
■価格=最小単位は目安として二五〇g(約三本)五〇〇円。送料は着払い。