で・き・る現場監督:「八百八町」雑色店・内田克彦店長

1998.03.02 147号 7面

「八百八町」雑色店は平成6年オープン。店舗面積約四〇坪、客席数七二席の中規模店。内田克彦さん(三五)は半年前からこの店の店長になった。店の売上げが低下しはじめたので、そのテコ入れで近接地の蓮沼店からコンバートされてきた。

蓮沼では平成5年11月から昨年の6月ごろまで店長をつとめていた。雑色店にきてまだ日は浅いが、現場の指揮をとる店長経験は今年1月で満四年になる。明るい笑顔にキビキビとした身のこなし、年齢も実際の年よりもはるかに若く見える。結婚はまだしていない。

「ボクは独身貴族のヒマ人」というが、店が休みのときはジョギングをしたり、ジムで身体を鍛えたりしている。内田さんは健康でベストコンディションで働くことも、店長の務めの一つと自覚しているのだ。

体を鍛えるだけではない。友人を誘って食べ歩きもする。そのときはとくに店の接客面を学ぶ。従業員のキビキビした接客ぶりなど優れた点は即自己の店に取り入れる。

店の運営は一人ではできない。厨房、ホールの全員が一丸となって、客の欲求に応えなければならない。これは内田店長のマネジメントに対する基本的な考え方だ。

ホールスタッフは客と接するので、明るさ、快活さが大事だ。このため、内田店長は楽しく、意欲的に働けるよう職場の雰囲気づくりに気を使う。

内田店長は店のアルバイトの女の子たちを“仲間たち”として接している。単に取っ換え、引っ換えのアルバイターという考えではなく、共通の目的を持ったチームメートという意識である。

内田店長は怒らない。教えて育てる。だから以前の蓮沼店のときもそうだったが、女の子たちの定着は半年、一年はざら。なかには大学生から社会人になっても、アルバイトを続けてくれたベテランの女の子もいた。

「ボクはもちろんお客さんに気を使いますが、仲間たちにも気を使っています。女の子はデリケートですから、彼女たちの立場にたって、気を使って上げなければならないのです。仕事ですから善しあしのケジメはつけているつもりですが、画一的な接客ではなく、最大限彼女たちの個性を尊重しています。基本は明るさ、笑顔です」(内田店長)

八百八町は店長の自主性、個性を尊重している。チェーン店のような画一性を排除しているのだ。

店の共通理念、運営コンセプトに三つのポイントがある。

「客の立場で考えろ!」「使い残した材料は捨てろ!」「客のサイフに負担をかけるな!」

内田店長はこの“石井イズム”をよく理解している。鮮度の落ちる使い残しの材料は捨てる。これは勇気のいることだが、客の立場で考え、客を裏切らないということを表している。

この石井イズムをバックに、さらに内田店長は自主的に次のことを掲げている。いわば、内田イズムのマネジメントだ。(1)商品のよさ(2)人間の元気さ(3)店の清潔さ。とりわけ清掃については、店内からではなく店舗外から始めているが、これは地域貢献を目指す象徴的な事例である。

内田店長には、もう一つのガンバリがある。これは“羞恥心は自己の発展を阻害する”という自らの戒めに表されている。この精神で、内田さんは何事にも前向きにトライしている。

雑色店は月一回販促・イベントを実施しているが、内田店長は自らのアイデアで、営業前に店の旗を担いで地域の住民にチラシを配って回る。最初のころは気恥ずかしかった。「こんにちは!」と、何度声をかけてもけげんに思われて、無視され続けたオバサンがいたが、ついに挨拶を返してくれた。うれしかった。これを契機に度胸がついた。

小さなことかも知れないが、恥ずかしがっていては何もできないと悟った。やがて、旗を見つけると子供たちがオモシロがってついてくるようになった。チョコレートを配るようになってからは、さらに子供たちが注目するようになってきた。

子供が喜んでくれれば、親が店に関心を持ってくれる。“将を討たんとすれば、まず馬を射よ”のたとえ通りだ。

このハタ作戦が集客アップに貢献しているのはいうまでもない。すでにリピート客が九割以上。満席状態も続いてきている。

客単価二四〇〇円。月商一〇〇〇万円前後。目標は一二〇〇万円だが、半年先には達成する意気込みにある。

◆居酒屋「八百八町」雑色店/経営=(株)エス・アンド・ワイ石井/代表取締役=石井誠司/本社所在地=東京都世田谷区等々力二-一三-一〇、電話03・3701・8001/雑色店所在地=東京都大田区仲六郷二-八-一三、電話03・3757・0800/大手居酒屋チェーン「つぼ八」創業者石井誠司氏の経営。

地域密着、低価格志向の居酒屋で、オリジナルの手作り料理が売り。東急、京浜急行沿線(東京・大田区)を勢力地盤として、チェーン化を推進中。現在、梅屋敷、蓮沼、武蔵新田、糀谷、雑色店の六店舗を展開。

◆内田克彦店長(八百八町・雑色店)=新潟県相川市(佐渡島)出身、昭和37年生まれ、三五歳。実家では祖父の代まで味噌作りをしていたが、父の代で廃業。高校を卒業して一九八一年に上京。専門学校を経て(株)エス・アンド・ワイ石井(八百八町)に入社。梅屋敷店スタッフ、蓮沼店店長を経て昨年6月から雑色店店長。

“羞恥心は自己の発展を阻害する”を自戒の念に、天性の明るさに加えて、何事にもプラス思考でチャレンジ。店の客に対してはウエルカムの挨拶は、紋きり型の「いらっしゃいませ」ではなく、親しみを込めて「こんばんわ!」。感謝の気持ちはキチッと頭を下げて「ありがとうございます」がモットー。

将来の目標は、独立して自分の店を多店舗化し、好きな米国(カリフォルニア)にも出店すること。もちろん、当面の課題は性格のいいお嫁さんをもらうこと。

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