業界人の人生劇場:上海エクスプレス社長・杉崎幹雄氏(下)

1998.07.20 156号 15面

今や、外食産業の中でも成長産業のトップに挙げられるまでに規模を拡大したデリバリー・ビジネス。宅配ピザを筆頭にすし、弁当、釜飯など、その業種は多岐にわたる。このような状況下、「上海エクスプレス」は、中国料理デリバリーとしてここ数年、成長著しい。

‐‐今後二~三年が正念場と聞いていますが。

ええ。今後、他産業同様、外食産業でも、個人消費にターゲットをピタリととらえた業態だけが、大きな可能性を持ってくると、私は思うのです。そのような、潜在需要をいかに徹底的に掘り起こしていけるか。すべては、このやり方にかかっています。

上海エクスプレスでは、首都圏一都三県での一〇〇店舗展開、二〇〇〇年をめどとする全国主要都市への出店、この二大目標を掲げ、本格的中国料理デリバリーのトップを目指しますよ。

‐‐チェーン展開が成長の鍵を握るとも、お考えのようですが。

CVSが、既存の商店を淘汰していくのも、時代のすう勢でしょう。同じく、外食産業でも、情報武装、フットワークの軽さを身につけなければ、消費者ニーズをとらえてはいけない。そのためには、どうしてもチェーン展開が必須となるのです。CVSに対抗し得る商店は、その店でしか出せない特徴を全面に打ち出した専門店のみ。外食産業でも、同様のことが言えましょう。特徴の無い店舗は次々と淘汰されていくに違いない。

‐‐差別化、という点についても、独自のお考えをお持ちのようですが。

渋谷の並木橋に最初の喫茶店を出店した時から、何か一つ、こだわりみたいなものを、店の特徴として出していました。これも、海外をあちらこちらと若いころから飛び回ることができた中で、無意識のうちに身についた感覚なのでしょうか。

上海エクスプレスでは、極力アルバイトで店を展開できるようにはするものの本格的中国料理を提供するためには、味付けのポイントとなるところは、中国料理の専門職人に登場願う。本格的な中国料理。正確に、お待たせせず、宅配を行うという、デリバリーだからこその基本を忠実に実行する。この二点は、店舗網拡大をいくら行っても、守っていかなければなりません。

差別化。他の業種でもその必要性は叫ばれて久しいですが、これをばかにしてはいけない。これからは、いかなるビジネスにも、「ほかとはここがちがうんだぞ!」と、堂々とアピールできるポイントが必須でしょう。ただ、他人の行った事業の二番煎じ、二匹目のどじょう狙いでは、事業拡大とともに、息切れしていくのは、火を見るよりも明らかですよ。上海エクスプレスは、お店の味を、否、それよりも上等な味の中国料理を、クイックデリバリーで提供し続けます。

‐‐カフェを経営されていたころは、どのようなこだわりをお持ちだったのでしょう。

例えば、什器はノリタケかオークラを使う。ピッチャー、スプーンは金メッキをしたものを使う。とにかく、お出しする飲食物のクオリティーの高さにこだわったことはもちろん、什器のような小道具にも、高級感を出すような“演出”をしていました。

スプーンなどは、持ち帰られることも多かったんですよ。まあ、一種の宣伝費のようなものだと思い、余り気にはしませんでした。それでも、ドトールなどのチェーン展開には、打ち勝てない時代となったのでしょう。

しかし、上海エクスプレスは、攻撃的フォワードを持つ組織戦で臨み、絶対負けませんよ。カテゴリーを異にしている超高級な中国料理店以外とは、互角に勝負していきますよ。

‐‐原材料については。

本格的な中国料理のデリバリーをローコストで実現するために、肉類は伊藤忠フーズとの提携により、すべてあらかじめカッティングされた食材を使用します。ソースはヤマサ醤油と共同開発ソースを使用。これには、自信があります。

ただ、現時点では、野菜類は残念ながら各店舗での裁断に頼らざるを得ない。野菜類は、パッケージングすると、どうしても水っぽくなり、中国料理特有の、あのシャキッとした食感が出せない。本格的な中国料理には、具材を高カロリーで短時間に炒め上げることが何よりも肝心なのです。家庭では、コンロのカロリーが低いため、炒める時間が長くなり、水っぽくなってしまう。

上海エクスプレスへオーダーしていただくためには、家庭でも容易に作れる中国料理ではなく、中国料理店で出される本格的な料理を家庭で、手軽に味わえる長所を、大いにアピールしていかねばならない。

しかし、野菜類のパッケージングについても、既に検討段階に入っています。

実に多彩な業種を渡り歩いて来た杉崎社長。しかし、差別化、オリジナリティーの発揮を常に追求、強調する姿勢には、学ぶところ大であろう。

横顔

◆大学卒業後、TV局向け輸入映画の翻訳・構成・配給を行う会社に就職。かたわらで、喫茶店経営を皮切りに、小ぶりのクラブまで、さまざまな飲食業を経営。二八歳で会社勤めを辞めるまでは毎日、朝9時から夜11時まで働いていたという「黎明期」を持つ。飲食業からの収入は、二〇代で既に給与の二〇倍はあったという、元祖青年起業家。海外旅行が趣味で、地球上のほとんどの地域へは一度は足を踏み入れたという行動派。豪勢な生活をおくってきた氏だが、半面、一円の価値が、年を重ねるごとに非常に良く理解できるようになったと、柔和な笑顔からは、ビジネスの基本を全身体当たりで会得した余裕がうかがえる。東京都出身、五〇歳。

企業メモ

◆(有)上海エクスプレス/一九七〇年8月設立の(有)幹商会がルーツ。九三年9月、新宿に中国屋台料理「天来」をオープン。九六年2月、東京・世田谷区に本格的中国料理のクイック・デリバリーを売り物にした「上海エクスプレス」直営一号店となる池尻店をオープンする。

以降、今年6月までに、直営・FC店舗、それぞれ八店舗、計一六店舗を展開。デリバリー業界に確固たる位置を占めるには、ここ二~三年が勝負どころと、杉崎社長は意気込む。OAを駆使した一括受注と、各店舗へのパソコンによるFAX送信など、情報面での武装も着々と進んでおり、今後、外食業界での成長株「一押し」的存在となりつつある。

(聞き手・洛遥)

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