チーズ特集:ヒットメニュー開発講座、静かなブーム本格チーズ料理
いま外食市場をリードしているのは若い女性客だという。確かに、この不況をよそに繁盛している店を見ると、ほとんど例外なく女性客で埋め尽くされていることが多い。女性に好まれる、女性に強い店こそが現代の繁盛のキーワードといって良さそうだ。
当然のことながら商品づくりもまたそのような女性のし好や感性を的確にとらえたものが必要とされるし、ヒットメニューづくりのための最もベーシックな要素になっているともいえる。
従って、ヒットメニューを開発しようとするならば、女性に好まれる食材を上手に活用することがその第一歩となろう。女性に好まれる食材は数多くあるが、最近のトレンドとしてきわめて人気が高まりつつあるのが「チーズ」類だ。
大ブレークしたチーズケーキやティラミスなどのデザートメニュー、ピッツァ、グラタンといったポピュラー料理はすでに定番化したが、いま、新たに「本格感のあるチーズ料理」が静かなブームとなりつつある。
もちろん、その背景には海外旅行ブームで本場の味、本物の味を知った層が増えたことや、健康意識の高まりからのナチュラルチーズへの志向の増加、ごく最近のワインブームとからんだチーズへの新しいアプローチなど、さまざまな要因がある。いずれにしても、多くの女性客がいまチーズ料理に注目していることは疑いがない。
チーズはそれ自体が完成された食材ではあるが、別な視点からみると、きわめて多様に使える便利な「調味料」としての機能もある。ごく一般的な料理であっても、それにチーズを加えるだけで格段に付加価値が高まり、人気の商品となることはすでに経験ずみだ。
チーズハンバーグ、チーズカツといった類の料理は枚挙にいとまがない。けれども、もっと調味料としての役割を強めた使い方が考えられるはず。「チーズソース」がその典型で、生クリームや白ワイン、フォンなどをベースとして、チーズを溶かし込んだソースを活用したい。
特に、淡泊でヘルシー感のある素材とチーズソースを組み合わせた料理は、味も、イメージも、女性の好感度が高くなる。例えば、淡泊なチキンのグリルやシーフードの料理、あるいは野菜を主材料にした料理などにチーズソースを組み合わせると良い。
ただし、この場合はあまり個性の強いチーズは逆効果で、むしろクセのない、食べやすいチーズを使う方が無難。レッドチェダーやモントレージャックなどの業務用としてポピュラーなものを二~三種ブレンドして使うと風味も複雑になるうえ、味も独自のものが作れる。
一般的にいえば、日本人のチーズに対するし好レベルはまだそれほど高くはなく、ことチーズに関しては「子供口」のレベルとみても良い。このレベルではチーズそのものを主として食べるということはなく、あくまでもチーズを「従」として食べる層がほとんどだ。
それでも昔に比べればチーズを食べる量はかなり増えているし、やや主役に近い使い方をしても受け入れられる素地ができはじめている。
チーズを主とした料理といえば、「フォンデュ」や「ラクレット」「ディップ」といったポピュラーメニューがあるが、どれもいまひとつブレークしない。フォンデュなどはもっと売れても良いと思うが、ネックはその提供スタイルにありそうだ。
卓上でのフォンデュ鍋を使っての提供ではどうしても場面が限定され、とても気軽に食べるというわけにはいかない。とはいえ、フォンデュの内容自体には売れる要素が多いはず。チーズを完全な「主役」としてではなく、重要なバイプレーヤーとして位置づけた商品開発を考えるならば、もっとカジュアルで、楽しく、バラエティーに富んだ「フォンデュ」的なメニューが発想できる。
業務用として販売されている「チーズフード」の中には、少しのアレンジでフォンデュ的なメニューになるものもあるので利用してみるのも一法だ。
新しい味の世界を提案する
ナチュラルチーズへの人気が高まる中で、チーズの食べ方や調理法についても変化が起きはじめている。従来の、いわゆるトラディショナルなスタイルだけでなく、ざん新で、意外な感覚のチーズ料理が人気を呼んでいる。
そのトレンドの発信源は、最近増えはじめているフュージョンタイプの料理を売る「創作・折衷料理」の店。和・洋・中・エスニック、あらゆるジャンルの素材や調理法を自在にアレンジし、新しい味を売り物にして若者や女性客を中心にして好調に集客している。
チーズという純洋風の食材を中華の点心風の料理にしたり、和風の食材や調味料で調理するなど、既成概念にとらわれないところがお客にアピールする。食べることに一種の遊びの要素を盛り込んでいるともいえるわけで、特に、アフターファイブの市場で人気が高い。
比較的クセがなく、どんな材料や味ともなじみやすい「カマンベール」や「モッツァレラ」などがこのタイプの商品開発に向いている。最近では両者とも業務用として比較的安価なものも流通しているので、チーズの量も多めに使ってインパクトの強い商品開発をしたい。
チーズ系のデザートといえば大ヒットしたティラミスを筆頭に、さまざまなものがある。大定番となったチーズケーキやアイスクリームにも、ストロベリーチーズなどの人気フレーバーがある。ムース系デザートなども多い。
ただ、これまでのチーズ系デザートメニューはそのほとんどが「リッチ」なタイプで、どちらかといえばハイカロリーでヘルシー的なイメージには欠けていた。ティラミスにしても、マスカルポーネと生クリームという、これ以上はないくらいのハイカロリーな内容で、その点では全く現代的でない面がある。
やはり時代はヘルシー志向なのだから、チーズデザートもまたローカロリーで、健康的なイメージの強いものが望まれてくるはずだ。同じチーズを使うのでも、カッテージチーズやローファットタイプのリコッタチーズなどで、ライト&ヘルシーなチーズデザートを提案したい。
また、調理法もできるだけナチュラルなフレーバーを残すようにし、チーズそのものの味が楽しめるような方向が良い。
リキュールで風味づけしただけのカッテージチーズにフルーツを添えたり、フレッシュチーズにベリー類のピュレをかける、といったシンプルでナチュラルな感覚のデザートが売れる時代といえる。
■筆者紹介■ 押野見喜八郎(おしのみ・きはちろう)FSプランニング代表。外食企業・食品会社の経営、商品開発コンサルタントとして活躍中。専門である商品政策やメニュー指導では第一人者としての定評がある。「ヒットメニュー全科」(商業界)、「喫茶店経営改善ハンドブック」(柴田書店)など著書多数。業界誌でも健筆をふるう。