歩こうある考:辛くて結構
里から近い低山でも山の中を歩いていると、しばしば動物の足跡を見つけることがある。よく観察してみるとその動物のイメージが足跡にもよく現れていて、なかなか楽しいものだ。
右に左にフラフラしているのがタヌキの足跡。しっかり一直線につながっているのはキツネの足跡だ。のんびりとしていて化けてもしっかりしっぽを出しているタヌキと、緊張感がありきっちり人間をだますキツネのイメージそのままだ。
さて、人間様が健康のために歩く時はどちらの歩き方が良いのだろう。「タヌキ歩きの方が気楽にリラックスできるから好き」という人もいるだろうが、残念ながら健康につなげるためにはキツネ歩きの方が適している。
トレーニング効果を高めるためには、運動部位を意識しながら、適度な緊張を保ちその部位に一定の負荷を与えながら運動する必要があるのだ。「ラクして健康」という言葉には少しウソがあり、辛くないと効果が出ないのが本当のところだ。多少辛い方が運動効果はもちろん、終了した時に達成感を持つことができ、心の面でも気分良く健康になれるから、結果は楽しくなる。
生活の中で歩行は、どうしても部分的な運動で、ともするとほんのヒザから下だけの動きだけになってしまい、さらに年とともに足を上げることも少なくなる。だから小さな段差にもつまずいて転んでしまうこともよくあるのだ。そのような歩きではなく健康な全身運動へ広がる歩き方にするには最低三つの決め事がある。
「背筋を伸ばした正しい姿勢を作ること」「大股に歩くこと」「一本線でまっすぐ歩くこと」
まず姿勢を作る。両手のひらを合わせてまっすぐ上にのばし、顔を上に向け、つま先立ちになるように上へのばす。そのあと腹筋と下腹は緊張させたままゆっくり踵を降ろし、肩や肘はリラックスさせて、手を下げ軽く脇につけて立つ。そうすると、下腹は引っ込んだまま、背筋もまっすぐになっていることを感じられるだろう。ただしこの姿勢を保つためには、腹筋や下腹の緊張を解くことができず、ある程度の力の持続が必要だ。それが運動には大切で効果につながる。
さあ、そのまま腹筋や下腹の緊張感を保って、大股に直線上を歩いてみよう。最初は不自然でぎくしゃくするかもしれないが、それに慣れた頃きれいな姿勢で歩けることになるだろう。
大股や直線歩きの方法と効果は次回以降のお楽しみである。
((社)日本山岳ガイド協会認定ガイド 石井明彦)