ようこそ医薬・バイオ室へ:五月病にはチーズケーキのバナナ添えを

2004.05.10 106号 12面

ある大学の先生が「以前は5月の連休が終わるとめっきり学生が来なくなったものだが、最近はちゃんと来るんだよ」と半分困ったように言っていた。大学も昔は「大学生は自分で勉強するもの」と突き放して安住していたが、近頃は競争原理が少し働いているので、こうなると適正なサービスを行わなくてはならない。学生気質も与えられることに慣れてしまっているので、つまらない授業でも、出る方がラクなのかもしれない。

しかしやはり新入生の5月のブルーというものは存在する。で、社会に出たら出たで、いままで小馬鹿にしていた訳の分からないオヤジたちに決裁権と人事権を握られている現実に慣れるまで、それ相応の時間を必要とする。

あれやこれやで春に新生活を迎える人々は多く、期待と不安が渦巻く中、アッという間に4月が過ぎて、ゴールデンウイークに突入する。そして、ゴールデンウイークが終わって、いざ学校や会社に行こうとすると、何となく憂うつで、気分が乗らず、いろいろなものに無気力になってしまう。この状態、俗にいう「五月病」は、医学用語ではなく、専門医はアパシー・シンドロームと言っている。アパシーとは無気力のことだ。

厳しい受験や就職戦争を勝ち抜いて、やっと入ったのに、たった一カ月ほどで仕事や勉強に対して無気力になるのは不思議な気がするが、多くは、もともと第一希望ではなかったところに入学・就職した場合や、期待が大き過ぎたため現実とのギャップが埋められない失望感や、次の目標が見つけられない喪失感などが原因となる。また、最近はリストラへの不安から「サラリーマン・アパシー」になる中高年が増えている。

「スチューデント・アパシー」の特徴は、勉学だけに無気力になり、アルバイトや麻雀などに夢中になり始める「選択的無気力」だ。サラリーマンの場合は、無気力だからといって会社は休めないので、休みの日に嬉々として日曜大工に励むなど、人それぞれの症状を呈すが、いずれも大概は一、二カ月で何となく治ってしまう。この時、「自分の居場所ではない」と思って、転学部や再受験したり、希望の転職先を探したり、前向きに歩み直す友人もいたので、五月病は決して悪いことではない。5月病が起こるのは、それだけ受験勉強に懸命になった結果、あるいは「いま」を主体的に模索している過程なので、もしかして現代学生に症状が目立たないのはそれはそれで問題かもしれない。

それはさておき、二カ月経っても、無気力から全然開放されないと要注意で、次第に、腹痛・下痢など消化器症状、睡眠障害、頭痛、めまい、動悸など自律神経症状が出てきて、「退却神経症」や「うつ病」という病気の世界に入り込んでしまう。

性格的には、新しい環境に適用しにくい性格、つまり、真面目で几帳面、完全主義な人、内気で孤立しやすい半面、頑固で融通がききにくい人が「退却神経症」や「うつ病」に陥りやすいという。

ところで、こういう「うつ」症状の時には、生理的にセロトニンやノルアドレナリンという脳内物質が不足しているといわれる。

中でも特に重要とされるセロトニンはトリプトファンという必須アミノ酸から作られるため、トリプトファンの含有量の多いチーズ、バナナ、卵黄、牛乳などの食品をきちんと摂取すると、先のアパシー・シンドロームや「うつ病」になりにくいかもしれない。実際、トリプトファンの摂取を制限すると、脳内のセロトニンが減り、人は「うつ」状態になるといわれている。

「マズイかも」と気になる人は、チーズケーキのバナナ添えでも食べてみてください。

(バイオプログレス研究所主宰 高橋清)

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