らいらっく人生学:女性編 宮城・白石「温麺」の旅で
宮城県・白石市に『温麺』(うーめん)なる名品ありと聞き、旅に出た。
当地にのみ特産とする『温麺』はそうめんの一変種であり、結構なごちそうであった。が、それよりも、ここで出会った製麺所と『温麺』の食事処を営む女主人Y子さん(七三歳)が印象的だった。
招じられた居室がまた良かった。八畳間の中央に炉が切られている。自在鈎に南部鉄瓶がかかり、ちんちんと快い音をたてていた。明治の初年、創業時の骨格を残しつつ改装したのだという。凝った造りではなく、ざっくりとして時代を帯びている。
「この部屋が好きなのよ。終戦間もなく嫁に来たころは、古臭くて、因習的でと思ったのにね」
お店に彼女が書いた額がかかっている。太く、丸っこい字もいいし、その詩には胸の深いところが疼いて少し感傷的になった。
『蔵王の山々が雪化粧した十二月、冬至。ごま油と野菜の香りが家中に広がって 輪切りのごぼう・人参・ねぎ・里芋が入った実だくさんのけんちん汁を食べます。‐中略‐ずーっと昔から受け継いだ我家流です。』
むしろ中略のところに情緒があるが、スペースの都合でやむを得ず省略する。
Y子さんは、お盆には〈ごまだれうーめん〉、お彼岸は〈くずかけうーめん〉などを整え、年中行事に合わせた食文化を守っている。
「一年中、何かしらある。若いころは、煩わしくてならなかったのが、いまでは宝物。息子夫婦に伝えていくのが私の役目ね」
白石市のあちこちに、なお古き良きものが残っているのは、Y子さんのような人がたくさんいるからだろう。平成7年に復元された白石城は、古式に則った和式木造である。小城ながら、身に迫る存在感だった。
自分の生活を振り返ると、もう親父やおふくろが大切にしていた季節の行事も、雑煮、菖蒲湯ぐらいで、ほとんど私の周囲から消えうせていた。すでに子供たちに伝えるべきものを喪って、立ちすくむ思いだった。
(エッセイスト 富永春雄)