百歳への招待「長寿の源」食材を追う:芍薬
「立てば芍薬、坐れば牡丹」と古来美人のあでやかな姿にたとえられている中国原産の美しい花である。いずれもキンポウゲ科に属し、中世紀に中国から伝来、目的は薬に用いることであった。しかし大輪の花はあまりにも美しく、花のファンも多くみられる。
(食品評論家・太木光一)
芍薬(しゃくやく)はキンポウゲ科の多年草で、シベリア・モンゴル・中国北部・朝鮮などにわたる広い地域が原産地である。歴史の古い植物で『神農本草経』(西暦五〇〇年)には腹痛・利尿・神経の安定に卓効あることが記されている。薬用ばかりでなく観賞用にも栽培され、庭園用の花として愛され、宋代(九六〇年)には三万余の品種がみられた。平安時代に中国から渡来。観賞用として広く愛されるようになったのは江戸中期以降のこと。中国では薬用としての芍薬を特に白芍・白芍薬と呼び、差別している。良品のとれるのは黒龍江・吉林・遼寧・河北・河南・山東・山西・陜西・南蒙古。
芍薬は草であり木ではない。冬になると地上の枝はすべて枯れる。植え付けて三~五年後の秋に根を掘り調整したものが生薬の芍薬である。その性味は甘・辛・温で、成分として苦い配糖体のベニオフロリン・アルカロイドのベニオン、そのほか揮発油・脂肪油・樹脂・糖でんぷん・タンパク質などを含んでいる。品種として白芍薬と赤芍薬の二種があり、白芍薬は栽培種で生産量も多い。白芍薬の商品分類は(1)杭白芍(2)川白芍(3)毫白芍(毫=細毛)・宝鶏白芍となる。いずれも味をみると微苦、そして酸味がする。
薬理をみると、白芍薬・赤芍薬とも似たものがあり優れた性状がみられる。効能として次のものが挙げられる。
(1)解痙作用に効果大…急に起こる筋肉のけいれん痛。例えば胃けいれん・胆石痛など
(2)循環系統によく働く…動物実験によると、降圧作用大・冠状血流増加に効果がある
(3)鎮痛・鎮静作用がみられる
(4)抗炎・抗潰瘍作用
(5)抗菌・解熱作用
具体的な利用法をみると、単に薬剤として優れているばかりでなく、薬膳や薬粥・薬菓・薬茶などに広く利用されている。沙茶茯苓粥は、沙参二〇グラム・白芍二〇グラム、芍薬二〇グラム・うるち米適量で作るが生理不順に良いとされる。蒿粥は青皮・青蒿・白芍・うるち米で作るが婦人病に効果的。
薬菓では白芍蛋〓(鶏卵入りカステラ)が養血柔肝の効果が大きいとしている。薬茶としては、白芍をはじめ四〇種近い薬剤がブレンドされた「天中茶」があり、健脾和胃・寒熱頭痛・咳嗽鼻塞などに良いとして広く愛飲されている。
そのほか赤芍薬は赤芍一五グラム、甘草五グラム、緑茶二グラムを合わせたものであるが、涼血・活血に良く毎日の愛飲をすすめている。
以上、芍薬の効用を総合してみると、(1)婦人のわき腹の痛み(2)治下痢(3)妊娠中毒(4)産後不順(5)生理痛(6)治白帯下(7)出血過多(8)脚気・むくみ‐などとなる。このため芍薬を原材料とした漢方薬剤は数十種に及び広範囲に活躍している。自らの名に薬の字を持つゆえんだ。