中国の驚異の植物「サージ」、都留信也所長に聞く
8月から10月にかけて、中国黄河流域に分布する沙棘(サージ)は、棘のある枝を紅色や橙色や黄色に染めるほど、小さな実をたくさんつける。
沙棘とは、読んで字のごとく水が少ないところに育つ棘のある植物で強い生命力を持つ。主に中国に分布し、大部分は黄河流域に集中。標高二〇〇〇メートルの乾燥した寒い山間部に密生し、土壌が貧弱で水が少ないところに育つ。中国の一三〇〇年前の唐の時代の「月王薬珍」チベットの医学書「四部医典」などの薬典に、すでに沙棘の医薬用途が記載されている。
現在では二〇〇種類ほどの生物活性成分を含むことが分かっており、これは自然界の一つの奇跡といわれている。特に驚くべきことは、老化の素といわれる身体の錆びつきを抑える抗酸化物質が非常に多いこと。ビタミンCはあらゆる果物の含有量を上回っているが、ビタミンEとβ‐カロチンも果樹植物ではトップクラス。病気の予防として、また外用では外傷や火傷などを治す薬として注目を集めている。
この沙棘にいち早く注目し、日本で研究している、今年4月発足の日本沙棘研究所の都留信也所長(日本大学生物資源科学部研究所教授)に話を聞いた。
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とにかくこの沙棘、抗酸化物質が非常に多いので人間の生理活性機能に大いに貢献するほか、現在深刻な問題となっている地球の砂漠化の救世主にもなる可能性を持つ、大変な植物です。ところが日本ではまだあまり知られていません。
私は野生の沙棘の八〇%が分布している中国・山西省を中心に研究していますが、地元の人は大昔からその有効性を知っていて、生活に生かしています。中国においても沙棘が自然に分布している地域、つまり田舎の人にとっては当たり前のクスリなのですが、都市部の人はそれほど存在を認知していません。
一昨年、内蒙古に行きましたが、モンゴルでは沙棘が切手にもなっているくらい一般的なものでした。それでも都市部に行くと知らない人もいます。
中国を中心にモンゴル、ロシアなどユーラシア大陸のあらゆる地域、標高の高い所、低い所、色々な所に沙棘は分布していて、その土地に住む人々がそれぞれに沙棘を食品やクスリとして活用しています。成分はもちろん育った土地によって違っていて、抗酸化の成分はやはり紫外線の強い標高の高い地域のものの有効性が高いようです。
味は酸っぱく甘いので、果実は食品、特にジュースやジャムに向いています。中国製のジュースは甘く、ネクターに似た味で子供にも人気があります。
種子からは油がとれますが、これは全体の八%しかとれないので本当に高級食用油です。山西省全体でも三〇〇〇トンだけ。製法は油圧式、つまり一番搾りです。この種子の油や果実から採れる油には大変な抗酸化作用があるので、乾燥肌、シミ、シワをなくす美肌油として大変珍重されてきました。女性にとってはまた、産後の養生、便秘解消などにも効果があるので、現地の女性の味方であったわけです。そのほか心臓病や高脂血症の予防・改善などにも有効です。
日本でも昨年、この沙棘油一〇〇%をカプセルにしたホンサージ(紅沙棘)、沙棘の果皮と果肉から抽出されるフラボノイドを主成分にしたシンサージ(心沙棘)がそれぞれ発売されましたので、今後は徐々にその有効性が広まっていくことと思います。
○世界の砂漠の進行をストップさせる可能性も
沙棘は人間の身体にいいばかりでなく、様々な活用法があります。中国はいま砂漠化が深刻で西北の地域では水がどんどんなくなり、あらゆる緑の植物が育たなくなっています。これは大変な問題です。地球全体のバランスが変わってしまうのですから。しかし水が少ないところでも育つ沙棘を生かせば、砂漠の進行をストップすることができるのです。
多目的用途植物なので、枝は燃料に、葉は山羊などの家畜の餌に、種の油粕を飼料にすることができます。沙棘の植林は、地域にそうした付加価値ももたらします。中国では現在各地で植林基地を作っていますが、いずれ日本でも苗づくり、種づくりに発展させていきたいと思っています。
日本でも栽培できれば、流行のガーデニングに取り入れて、自家製のジャムを作るなど楽しめるようになるでしょう。例えば今日のブルーベリーやハスカップなどのように栽培植物として親しみやすい存在になって、もっとその有効性が日本でも一般的になれば、と考えています。











