ヘルシー企業の顔:タマノイ酢・播野勤社長

2000.05.10 56号 12面

若い主婦を中心に、子供から高齢者まで幅広い世代に支持されるヒット商品となったタマノイ酢(株)の『はちみつ黒酢ダイエット』。老舗「酢」メーカーの大躍進、急成長を続ける元気のモトを播野勤社長に聞いた。

「かねてから黒酢は、“頭で飲む”飲み物でした。血流改善、高血圧抑制、疲労回復、抗ストレス、肥満予防、カルシウム吸収能力向上‐‐など機能性が注目され、シニア層を中心に愛飲者を増やしました。しかし一方で、『味に癖がある』『蜂蜜などで割る手間が面倒』という理由から、継続して飲みづらいという声もありました。そこで、おいしく手軽で誰もが毎日飲みたくなる黒酢飲料の開発に取り組んだのです」

従来の黒酢のイメージをことごとく一新すべく、新製品開発企画チームは、一年生社員など若いスタッフを大抜擢。

彼らの若い感覚が生んだ『はちみつ黒酢ダイエット』は、まずパッケージのデザインが斬新。ベースには親しみやすい赤系の色を使用。ロゴもかわいらしく、機能が一目で分かるようにカルシウムやビタミンなどの文字も分かりやすくデザインされており、黒酢という言葉から受けるかたいイメージは払拭されている。

「社員の間では、このデザインでは黒酢らしくないとか、身体に良いというイメージが率直に伝わらないなどの声もありましたが、それがかえって良かったようです」

また、内容量の一二五ミリリットルもポイント。紙パック飲料市場は二〇〇ミリリットル入りが主流で、当初、流通の専門家からは「一二五ミリリットルでは小さすぎて売れない」と指摘を受けたが、結果的には毎日飲むのに適した量だったようだ。

「当社では、一九九三年から黒酢にカルシウムやビタミン類を添加した『スーパー黒酢』という商品を出していました。これをベースに、クセになる味、飽きられずに継続できる味を追求し、ありとあらゆる果汁をミックスして試作を繰り返しました。最終決定したときは、黒酢の風味が残り過ぎだという声も社内にありました。結果的には、おいしいだけでなくて、なんか身体に良さそうな味、という印象を与えたところが功を奏したのではないかと思います」

「いまの若者の嗜好は、ひとことで言うと『なんかイイかんじィ~』。機能の面でもデザインの面でも、そんな漠然とした快適さを求めているようです。たとえば、パソコン。ソニーの『バイオ』やアップル社の『iマック』という製品の出現以来、それまでパソコンのパの字も知らない若年層にも大ブームが起きました。機能の充実だけでなく、オリジナリティのある色や形などファッション性が重視されるようになり、それがパソコン業界全体の新たな流行となりました」

『単に商品を売ろうとするのでなく、流行ごと作り出すことで、国民的大ヒット商品になる』……この図式は食品の場合にもあてはまる。

「『変化の先頭であれ!』技術開発と新規事業。自分たちの技術が世の中で活躍できる場をみずから作りだすことを目指していきたいですね。いま特に力を入れているのが、新入社員や就職活動の学生との時間。『商品づくりは人づくりから』ということで、新人研修にはなるべく顔を出し、合宿では新入社員と肩を並べて走ったりもします」

また同社では各種関係研究機関への出向も積極的に行っている。大阪大学に出向し、遺伝子操作の最先端技術の習得を目指し『酢酸菌』の研究を進めている社員もいる。『調味料づくり』から『微生物を科学する』へと展開すれば、可能性は無限大に広がる。

「『おもしろい!』『やってみよう!』すぐ芽が出なくても『あきらめない』が成功の鍵だと思っています。夢を持つことは誰でもできる。でもビジュアライズされない夢は空想にすぎません。企画力とは夢を具体化する力。現実を見つめる勇気と知恵と『若さ』が夢を実現する力だと思います。

とはいえ、当たるか分からないものの試作や研究をやり続けるというのは、はっきり言って効率も悪いし、しんどいことです。それでも、とにかく『あきらめない』。どんなこともゼロにはならないのですから。社員が自分自身を信じてのびのびと『自分実現』できる場を提供することが、私の役目だと思っています」。

同社では、今年2月に500ミリリットルPETボトル入り『はちみつ黒酢ダイエットWater』を新発売。清涼飲料分野へ参入した。

新商品は、中高生など低年齢層をターゲットに、頭で飲む飲料でなくBODYが欲しがるドリンクを目指して作った商品だという。持久力持続や疲労回復効果が期待される黒酢を15ミリリットル配合。スッキリした後味にこだわり、甘味は人工甘味料は一切使用せず天然の糖(砂糖と果糖)のみを使用しながら、100ミリリットルあたり17キロカロリーと低カロリー。スポーツドリンクや水感覚で飲める新感覚黒酢ドリンクだ。

プロフィル (はりの・つとむ)

昭和28年6月生。51年成蹊大学卒業。54年タマノ井酢株式会社入社。56年管理部長に就任。58年製造部長、59年常務取締役を経て、平成3年7月代表取締役に就任、現在に至る。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら

関連ワード: タマノイ酢