あした天気になあれ:寒い朝、霧氷キラリ

2000.02.10 53号 5面

暖冬で、まるで3月の陽気といわれた1月。それでもそれなりに冷えたある朝のこと。「今日は異常に寒いね」。そばから聞こえてきたそんな言葉が気にかかった。今は冬。冬なんだから寒いのが普通であって、「異常に」というのは変だ。「今日は冬らしい寒さだね」とか言って欲しいな、と感じたのだろう。

静かに深く冷え込んだ早朝、ストーブの暖かい火に後ろ髪を引かれながら、さぁいくぞと山小屋の出口へ向かう。一歩外に足を出したとたん痛いほどの冷気が頬を刺し、身も心も引き締まる。ブルッと身体をふるわせ今日一日の山登りが始まる。冬山の朝はやっぱりこうでなくては、と思うのである。

そんな朝の登山道では、葉を落とした冬枯れの細枝に、さも冷たげな霧氷を張り付けた木々が目に付く。霧氷とは、ギューッと気温が下がり、本来ならもう氷になっても良いはずの過冷却状態にある霧の粒が、風に流され小枝に触れて一瞬のうちに凍り付き、これが風上側に薄く板状に発達して出来上がったものである。降雪は少なくても気温の低い八ヶ岳や軽井沢周辺、またはもっと低い山でもよく見られる現象だ。

薄い氷なのだから、日がさしてしまえば寿命は短い。風に作られ、その風にまたはがされながら、真っ青な空をバックに舞い散った霧氷が、太陽の光を受けてキラリキラリと輝いているのを見ると、ただ美しいという言葉しか浮かばなくなるのは、そのはかない可憐さが相まってのことかもしれない。

けれど自然はそんなに柔なだけではない。冬の厳しさはどんどん霧氷を発達させ、風向きが変わると樹木全体を包み込むようになり、それに着雪も重なってどっしりとしたモニュメントが出来上がる。その姿からモンスターともいわれ、八甲田山、八幡平、蔵王などで有名な、よくご存じの樹氷のことである。樹氷の形は千差万別。恐ろしげなものから可愛いものまで色々ある。そんなこんなを品定めしながら、スキーをはいて樹氷原を滑るのは、雪山に入る大きな楽しみの一つである。

厳しいけれど寒いからこそ感動も、楽しみも、そして近づく春への憧れも強くなる。だからやっぱり冬は寒い方がいいのだ。

(日本山岳ガイド連盟

認定ガイド 石井明彦)

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