食べ物漫遊:モロッコのミントティー

1999.02.10 41号 13面

”月の砂漠をはるばると~”。アラビアンナイトの幻想を抱き東京から十数時間の空の旅。やっとこさっとこカサブランカまでたどり着いたが、現実は厳しくなんとモロッコは、というよりイスラム圏はラマダン(断食)の季節。

大体、小生の外国旅行は、博物館や名所旧跡を見るなどという崇高なものとはほど遠く、もっぱらその国の料理を食べるのが目的というはなはだ俗っぽい旅なのだ。ふと胸騒ぎがしてご同行していただいた阪神航空の三浦扶美さんに「ラマダンの月はモロッコの料理人は味も見ないのですか?」と伺ったところ、なんと!「食べ物は一切口にしませんので、当然お料理の味見は致しません」とのこと。

ここで引き下がっては食いしん坊の名折れとなるので「でも現地の人はラマダンでも食事はするのでしょう?」と尋ねると、ラマダンの一ヵ月間は日の出から日没まで、食べ物、飲み物を一切口にすることは許されないという。食と性に関するあらゆる欲望を断ち切ることで、天国行ける免罪符?を手にいれることが出来るとのこと、地獄へ落ちても旨いものが食べたい、旨い酒が飲みたいなどというのは、我々異教徒の戯れ言なのだろうか。

どうもとんだ季節に来てしまったようだが、よい経験と覚悟を決めることにした。さてそのモロッコで一般的に飲まれているものは、お酒ならぬミントティーなる代物。これを飲まずしてモロッコは語れないということなので、一口飲んでみたが、なんと鳥肌が立つような甘さなのである。甘いの甘くないの、何でここまで甘くするのか検討もつかぬが、そういわれてみると街角で売っているモロッコ菓子は、甘い上にこれでもかこれでもかと蜂蜜がかけられている。いくら甘党の人でもこれを二つ三つ食べれば、へきえきとすることであろう。

ユネスコ世界遺産の古都フェズというよりは、世界一の複雑な迷路の街メディナで、当地の富豪からミントティーのご招待を受けた。レモンやオレンジのたわわに実る中庭を通り、アラブのモザイクがちりばめられた内装の客間でのティータイムは本当に千夜一夜の世界であった。

ミントティーをいれるのには、ポットに中国茶と、生か乾燥のミントの葉、たっぷりの砂糖を入れ、ここに熱湯を注げば出来上がり。グラスに注ぐ時は泡を立てるために出来るだけ高い位置から注ぐ。これがモロッコ風のミントティーの作法である。中国茶は何も上等な竜井茶や紺螺春茶を用いることはなく、ごく普通の緑茶を用いている。

ミントには、鎮痛・健胃作用があり、頭痛、下痢、不眠、疲労回復に効果があるので、灼熱の砂漠を渡るいにしえのキャラバンはオアシスにたどり着いた時、甘く清涼感のある一服のミントティーには救われる思いがあったのであろう。

皆さんも疲れた時などお試し下さい。ただしミントの鎮静作用により、時として男性機能が若干衰えると香港の粋人が嘆いていたので、この件に関しては小生は責任を負いかねる。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら