百歳への招待「長寿の源」食材を追う:黒豆

1998.01.10 28号 14面

正月料理には欠かせない黒豆(黒大豆)。純粋大豆を微粉にしたきな粉。健康食品の代名詞である豆製品、豆料理の神秘の力を数値でみてみた。

(食品評論家 太木光一)

中国では黒色食品を長寿用食品として特別に大切にする。黒大豆(黒豆)・黒米・黒ごま・黒砂糖など。中国の祝い事を表す色が黒色で、このため正月に黒豆を煮て食べる。この風習が日本に伝えられた。

黒色食品の神秘の力は、日本で人気の高い緑黄食品などの比ではない。その真価はまだ十分に究明されていないが、漢方薬剤にも採用されて威力を発揮している。

黒豆は中国北部地方が原産の一年生の草木。鳥豆・冬豆子などと呼ばれているが、大豆は黒・白・黄・褐・青・斑(まだら)などの品種に分かれ、現在世界で一○○○種以上を数える。

成分は畑の肉と呼ばれる大豆と近似しているが、薬効ははるかに高い。タンパク質・脂肪・繊維が多く、鉄・カルシウム・ビタミンに恵まれ、特にB1とB2が目立つ。

中国の薬膳大全を見ると、滋養健脾的効果が大きいばかりでなく、婦女の産後の百病に良いとしている。また中薬大辞典を見ると、漢方薬として黒豆の性は甘にして平。効力を見ると疲れを取り、リューマチや関節炎に良く、利尿作用も大。解毒面でも優れ、湿疹、神経性皮膚炎にも良い。漢方では腎を養い養血に効く重要な穀物とみている。

生理機能では肥満・老化・動脈硬化を抑えるサポニンや、動脈硬化に良いイソフラボノイドもあり、催乳作用もみられる。また美肌づくりに有効である。

日本で黒豆が文献に登場したのは、貞享2年(一六八五年)でそれほど古い作物ではない。兵庫県篠山盆地で栽培されたと記されている。

明治に入って黒豆は北海道で栽培され、産地は十勝地方と函館周辺に分かれる。十勝地方で産出されるものは光黒大豆の中粒種。これに対し函館産は大粒で通称「ハコグロ」と呼ばれている。

現在流通している品種は光黒と丹波黒で、光黒種はその名の示すように外観は黒く輝いている。丹波黒は表面に白い粉が吹いたようになっており、艶がない。

北海道は大農法で機械化が進んでいるが、丹波ではいまでも手作業が中心で生産性が上がらず、味の点で優れているが価格は三~五倍と高い。丹波種も岡山県や香川県で生産されるようになってきた。

黒豆の播種は北海道では5月中旬に、本州では6月に入ってから。収穫は10月下旬から11月にかけて。開花から収穫までに一○○日前後かかり、その間に豆は緑色・ピンク・紫、そして黒色と変わり成熟していく。

黒豆の特徴である黒い色はアントシアン系の色素で、鉄には安定である。黒豆を煮る時は鉄鍋で煮るか、ミョウバン・古釘などを加えて煮ると色よく仕上がる。決して重曹を加えないように。この色素はアルカリ性に弱く豆は柔らかになるが色が溶け出すので。

祝い肴の一品には不向きと思われるが、味の変化が出てかえって気のきいた一品となる。

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