おはしで治す現代病:「胃潰瘍」明るい性格がかえって危ない
肝臓を「沈黙の臓器」というなら、胃は「はっきりと意思表示をする臓器」だろう。やれ腹ペコだ、食欲不振だと訴えたり、時にはゲップで異常を知らせたり。これほど正直に心身の状態を表わす臓器も珍しい。いわば胃の状態を知ることは、自分の身体の状態を知ることにつながる。日頃のストレスに加え、暑さで胃の調子がイマイチという人も多いのでは? とはいえ、やたらに「プラス思考」で「お粥」を食べて「薬」を飲めば治まるってものでもない。最近、若年層にも増えているという胃潰瘍について、東京女子医科大学消化器内視鏡科講師の光永篤氏にうかがった。
Q 先日、健康診断で胃潰瘍といわれました。自分は明るい性格で、几帳面でもクヨクヨ型でもないからストレスには強いと思ってたのですけれど。
A 実はこのタイプが一番胃を傷めやすいのかもしれません。たしかにプラス思考の人は、胃腸の働きは活発ですが、ハリキリ過ぎて自覚もなく暴飲暴食し、胃腸を酷使しがちなので注意が必要です。
Q 胃潰瘍はどうしてできてしまうのですか?
A 胃の中の攻撃と防御のバランスの狂いが原因です。胃は、食べてものを消化するために、消化液(胃酸やペプシン)を分泌しています。一方、この消化液で胃の粘膜自身が傷ついてしまわないように、粘液を分泌し守っています。攻撃因子と防御因子の均衡を保っているのは自律神経の働きで、自津神経を乱す最大の原因はストレスなのです。
また、ピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)という細菌も、胃潰瘍などさまざまな胃の病気の原因になるといわれています。じつに胃炎患者の約八○%、胃潰瘍患者の約九五%がピロリ菌に感染していたと報告されています。大腸菌などの細菌と違って、ピロリ菌は胃酸に負けず自分の身を守る膜(アンモニアの膜)を持っているので、強酸の胃の中でも死滅しないのです。ピロリ菌の出す細胞毒は、まわりの細胞を空胞化させます。実際にピロリ菌に侵された胃の中では、粘膜が炎症を起こし、放置すると慢性胃炎から萎縮性胃炎、さらに最近では胃ガンとの関係も考えられます。
Q かわいい名前に似合わず恐ろしいヤツですね。その治療法と食生活の注意点は?
A 治療には抗生物質を使います。二週間ほど除菌すると、難治性の潰瘍が治ったり、再発しなくなったという例も多いです。いまのところピロリ菌に関する検査・治療は保険の適用外。ピロリ菌と胃病との関与はかなり明らかにされてきていますがいまだ解明の最中なのです。
食生活の注意点は、胃酸の分泌を必要以上に刺激せず、空腹の時間を長くし過ぎないことです。とくに朝食は必ずとること。朝は一日のエネルギー補給のために、胃酸がたくさん出ます。朝食を抜くと、胃酸が濃くなりすぎてしまう。そこに上司に叱られるなどのストレスが加われば、潰瘍はいとも簡単にひろがります。またアブラ物や刺激物を控え、牛乳など潰瘍面を保護する食品を取ることも大切です。