おはしで治す現代病:「老人性膣炎」癌研付属病院婦人科 陳瑞東副部長に聞く

1997.04.10 19号 19面

老人性膣炎。何ともやるせない病名だ。卵巣機能がなくなっても、その後三○年も生きる動物は人間だけだという。不審なおりものに「子宮ガンではないか」と人知れず悩みおののく女性はあなただけではないはず。老化による卵巣機能の低下は、ほかにものぼせ、めまいなど、さまざまな症状をもたらす。何だか調子が悪い、けれど病院の検査では異常値がでない、こう悩むのは女性に限らない。現代人は長寿だけれど健康度や体力はいまいち--これが実態ではないだろうか。そんな「未病の病」に注目し、身体本来のバランスを取り戻す、という漢方医学の考え方は、まさに現代病予防の秘訣そのもの。生活に漢方を生かす方法について、癌研究会附属病院婦人科副部長・陳瑞東先生に聞いた。

Q 老人性膣炎とは、どんな症状なんでしょうか?

A 年をとるとほとんどの女性に現われる症状で、おりものに少し色がついていたり、すえたようなにおいがするなど、子宮がんに似た症状があります。

これは女性ホルモンが少なくなって、膣の壁が薄く弱くなるのが原因なので、女性ホルモンを服用するだけで簡単に症状はとれます。しかし、女性ホルモン剤を長期に服用することに不安を持つ方もいらっしゃいますし、また乳がんになった人は服用できません。

そこで漢方薬など別の方法で、安全に長期間コントロールできれば安心です。漢方の有効性は女性ホルモンとほとんど変わらず、九割以上の人に効果が見られています。

Q どんな漢方薬を飲めばよいのですか?

A 漢方薬といっても体質や症状によって薬の内容が異なるので、専門の医師や薬剤師の診察が必要ですが、老人性膣炎には「八味地黄丸」が一般的です。また漢方薬の効果を高めるには、食事に工夫を加えることも大切です。例えば豆腐、味噌といった大豆食品をよくとることが大切です。

毎日のほんの少しの意識の変化が、長い間に体調を変えます。これが膣炎だけではなく老化全般の加速を防ぎ、がんなど成人病の発生を予防してくれます。漢方の考えは、身体の代謝能力をうまく刺激して、本来の機能を維持すること。がん患者であっても、食事療法で体調を良くし、元気さを少しでも保つこともできます。

Q ほかにも漢方薬の効果を高める方法はありますか?

A 適度な運動も必要です。私も癌研病院の入院患者さんに、痛みがなければ、散歩や階段の上り下りなど体力に合わせた運動を意識して行うように指導しています。

でも何より、病気の克服は、その人の生きがいあってのこと。「何のための闘病、だれのための人生」が明確でないと、元気にはなれません。最近多いのが、健康維持を生きる目標にしてしまっているかのような「健康志向病」の人。もともと人間は喜びや満足感を求めて生きるのであり、健康はそのための資本にすぎないはずです。

経済成長のもたらしたゆとりある生活は、食生活だけでなく、日本人の心の歯車をも狂わせました。貝原益軒の「養生訓」にも見られる漢方的発想は、現代人の健康維持に本当に必要だと思います。

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