おはしで治す現代病:「貧血」組織の酸欠状態、ダイエットご用心

1996.08.10 11号 19面

「お気持ちはありがたいのですが、アナタの血は不適当」。献血でOKがない貧血もちの人が増えている。ちょっとの息切れやめまいはつい我慢しがちだが、貧血を放置し身体の酸欠状態を続ければ、いつのまにか大病を引き起こす。

女性やお年寄りに多い貧血は、ほとんどが身体の鉄分の不足から起こる鉄欠乏性貧血。鉄不足になるのは調理に鉄器を使わなくなったからとかいわれるが、それよりも、食べ物の摂取量が減少することが鉄不足の主因。無知なダイエットをする人だけでなく、職場でも家庭でも仕事の機械化が進み運動量が減って食物の摂取量が減少しているため、現代人にとって鉄不足は避けがたい問題だ。カルシウムと並んで日本人に不足しがちなこの栄養素を効果的に吸収し、元気の“鉄人”になる食生活について、女子栄養大学助教授・三浦理代氏にうかがった。

Q・貧血を放っておくとどうなりますか。

A・貧血症の女性はよく青白い顔をしていますね。それは心臓や脳など生命維持に重要な部分に優先的に酸素を送ろうとして、皮膚に通う血量が少なくなるからです。

貧血になると、酸素が身体の組織に十分に供給されなくなるため、様々な症状が起こってきます。めまい、頭痛、手足の痛みなどの症状、さらに酸素が足りないのを補おうとして動悸、息切れなどが起きます。また重度になると、爪が逆さに反ったり(さじ状爪)、口の中が痛くてものが飲み込みにくくなります(嚥下困難)。

貧血の原因は、ほとんどが栄養不足による赤血球の減少によるもの。身体に酸素を運ぶ赤血球中のヘモグロビンの材料となる鉄不足が問題なのです。

Q・だからダイエットをする若年層に貧血が増えているんですね。

A・そう。摂取エネルギーを抑えると鉄分の摂取量も減ってしまうのです。また、胃潰瘍など鉄を吸収する機能が衰えても鉄不足は起こりやすくなる。

鉄分の欠乏は、体温調節能力の低下、幼児の知能低下、感染に対する抵抗力の低下などにも影響します。とくに高齢者は吸収力・摂取量がともに減少するため鉄分の補給が必須です。

また貧血は栄養不足のみならず、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、痔など身体のどこかからの出血が原因となっている場合もあるので、健康診断で貧血の疑いがあるといわれたら、専門医の診断を受けることも大切です。

Q・貧血にはレバーとほうれん草を食べるとよいといわれますが、鉄分の効果的な摂取法を教えてください。

A・二品とも確かに鉄分を多く含む食品ですが、吸収のしやすさが違います。鉄にはヘム鉄と非ヘム鉄の二種類があります。赤身の肉やレバーなど動物性食品に多く含まれるヘム鉄の方が、ほうれん草、ひじきなど植物性食品に含まれる非ヘム鉄よりも、五~一〇倍も吸収効率がよいのです。日本人の食生活からとる鉄分は九割が非ヘム鉄ですが、これはたんぱく質とビタミンCと一緒にとると吸収率がよくなります。日頃の食生活の中で鉄を効果よくとるには、鉄を多く含む食品をとることも必要ですが、より重要なのは栄養のバランスのよい食事を心がけること。

鉄はいろいろな食品に少しずつ含まれています。よく身体を動かしてたくさんエネルギーを使い、きちんと食べて自然に鉄の摂取量を増やす。これが貧血を防ぐ食生活のポイントです。

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