外食の潮流を読む(17)創業20年を経たトラジが持続する強い求心力を生み出す「仲間意識」

2016.11.07 453号 06面

 「焼肉トラジ」は今や燦然とした焼肉チェーンのブランドであるが、どこよりもチャレンジャー的な雰囲気を発信し続けている。1号店は東京・恵比寿に1995年12月にオープン。以来、21年を経て総店舗数60、年商100億円の企業に成長している。

 恵比寿は今日でこそ“飲食の町”という様相を呈している。しかも、隣の渋谷と比べると落ち着いた“食通の町”というイメージがある。その先駆けがトラジだ。

 恵比寿の1号店の繁盛ぶりはすさまじいものがあった。恵比寿の裏通りにあって20坪・6テーブルで、オープン間もなくして目標月商の210万円を達成、その後右腕となる有能なアルバイトが入店して6ヵ月後には600万円に達した。1日18組が限界なのに、毎日20組をお断りしていたという。

 このようなオーバーフローがあることから、1号店オープンの丸1年後の96年12月、近くに2号店をオープンした。15坪・2フロア60席で月商はたちまちにして当初予想の3倍の1500万円となった。従業員は皆20代前半で、あふれんばかりの活気の中に統制が取れていた。仲間意識や思いやりが伝わってきた。

 このようなことからお客さまに物件を紹介していただくようになり、銀座、有楽町をはじめ当時の先端を行く商業施設に次々と出店。新規出店をするたびに店舗のデザイン性は華やかなものになっていき、焼肉店の食卓を煙にまみれた空間から、店の雰囲気も楽しむ業態へと進化させていった。肉の厚切りは、トラジが編み出した商品の革新だが、トラジが放つあらゆるものが焼肉店の近代化を切り開いていった。

 さて、私はこの夏に雑誌のインタビューで金社長と久しぶりに面談する機会を得た。初めてお会いした当時は30代前半であったが、現在は50歳。本部の所帯も大きく、組織として淡々と業務が進められていた。

 同社では、創業20周年を迎えることになった昨年の2015年に向けて、その3年前に年商70億円だったものを、創業20周年に100億円達成を掲げてそれをクリアした。そして、現在「二刀流」と名付けた、調理スタッフ、接客スタッフそれぞれが両方の技能を高度に併せ持つための職能制度を設けて、店舗でのクオリティーを向上させるために社員一同が切磋琢磨している。

 店長会議は数字を議題にするのではなく、グループ討論によってコミュニケーションを図り、チームワークを深めている。

 そして、昨年12月に埼玉・本庄市の畜産業者を受け継ぐことになり、これから本格的に自社向けの畜産業も営んでいくことになった。いわゆる6次化である。

 トラジの創業当初の求心力は大繁盛とそれを支えるチームワークであったが、以来20年を経て100億円の規模になった今もチームワークにある。そして、それはみな創業当初からの「仲間意識」が源となっているようだ。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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