淘汰進む居酒屋チェーン 新感覚の居酒屋探訪「八百八町」「七味亭」
店に入るやいなや昼間なら「こんにちわ」、夜ならば「こんばんは」と店員の明るい声がこだまする。「いらっしゃいませ」という他人行儀のあいさつはない。ここは居酒屋「八百八町」。「つぼ八」の創始者で現在の居酒屋チェーンの基本コンセプトを築いたとされる石井誠二氏が、二一世紀の居酒屋像として展開するものだ。手作り料理と地域住民へのサービスに重点を置く同店のやり方は、居酒屋の新時代を担うコンセプトとして注目されている。
「八百八町」がオープンしたのは六年前。都心部での居酒屋は飽和状態にあると判断、東京都大田区の郊外に根を下ろした。地域密着型のアットホームな居酒屋を掲げ、同地区に現在三店舗を展開する。オープンしたての蓮沼店では一階と地下の二フロア計八〇坪、一三五席で月商一五〇〇万円を売る。居酒屋業態としては珍しく商圏を半径一キロメートルに設定。自転車、歩きで店に来れる客層を想定している。
個性でひきつける
店内はカウンター、椅子席のほか、カラオケ付などの個室があり、ミーティング需要にも対応。PTAや趣味の会合など連日予約で埋まっている状況だ。
店先には大田区の木であるクスの大木を植えて周りにベンチを配して近隣の憩いの場として提供。地域色を濃くしている。
「高度経済成長期は会社人間が多く、都市部の会社を拠点とした飲食店が栄えた。しかし最近はプライベート志向が強まり、外食の拠点も家庭周辺に移りつつある」(石井誠二社長)。家庭を対象とした居酒屋ニーズが強まっているとし、地域に合わせた個性のある店舗が求められているという。マスプロ・マスセール的なモノ社会に終止符が打たれ、手作り社会が到来するとにらむ。
カクテルを主力とする一五〇種類のアルコールと一〇〇種類のメニューは、すべて手作りでオリジナルなもの。人手はかかり、原価もかさむが、物件費用が低コストで主婦のパートが豊富なため、採算はとれるという。
家庭を拠点とするニーズのほか、今後はそれらに付随してホームパーティー需要が増えるとにらみ、ケータリングも始めている。予約は大体一〇人以上、五万円から。現在ケータリングの売上げは全体の一割、月に一〇~二〇件のオーダーがあるという。
ニーズ先取りして
「同じような店舗展開で店舗同士がしのぎを削るのは本当の戦いではない。時代のニーズに合わせた創造と、それを消費者に供給して継続するのが飲食店本来の戦い」とするのが店舗運営の持論だ。
同店はいまのところこれ以上展開する予定はない。画一化したやり方は郊外店に向かないからだ。しかし、いままでにつかんだノウハウを生かし、郊外店経営のコンサルタント業務に取り組んでゆく考えだ。
◆「八百八町」(蓮沼店)=東京都大田区東矢口一‐一七‐一二、Tel03・3738・8088、午前11時30分~午後2時、午後5時~午前3時、年中無休
自由が丘商店街にあった洋食屋から居酒屋になり二〇年近くになる。串焼きをメーンとしたメニュー展開で、開店前一年間を費やし、たれづくりをした。洋食の経験を生かし、七種の香辛料を使っての七味たれ。店名の由来はここにある。
1万人の客つかむ
レストラン時代に女性客が多かったことから、業態を変えても、女性をターゲットとした。
自由が丘という立地から、買い物に来る女性に的を絞ったのが功を奏し、女性連れ、カップル、ファミリーと客層を広げている。
「一万人の客をつかめ。歯車のごとく回って、うちに来れば良い」をモットーとしている。
メニューは、七種のたれをもとに一〇アイテムを柱にする。アスパラ・しそ・七味巻き、牛タン、エビのカッカ焼、つくねなどが定番メニューである。
毎年死に筋メニューを二、三品淘汰しながら新メニューを加え、三〇アイテムぐらいに絞り込む。
洋食の経験を生かして、手作り塩漬けベーコンを使った「けむり」、ピーマン、チーズなどを使った「ピーコン焼」などといった、アイデアメニューは、すべて手作りだ。今やロングセラーの一つとなっている。
「あんず酒」も好評
串焼きとともに飲まれているのが、女性好みの甘口ドリンク類。最近では「あんず酒」も人気の一つ。一九八〇円の「レディースコース」を設けたりし、買い物帰りに気軽に立ち寄れる店づくりをしている。
◆「七味亭」=東京都目黒区自由が丘一‐二九‐一四、Tel03・3723・7373、午後5時~11時30分、月曜定休