郊外型の居酒屋が活気を帯びている。本物志向のメニュー、アットホームな場の提供、また商圏を地域密着に絞り込むそのコンセプトは、従来の都市型の居酒屋とはまったく異なるもので、二一世紀の外食を担うニュースタイルの居酒屋として脚光を浴びつつある。

郊外型の居酒屋に共通するテーマは、本物志向の手作り料理と、明るく楽しくリラックスできるスペースを提供することだ。従来の都市型の居酒屋がアルコールを主体に勤め帰りのサラリーマン層を狙っているのに対し、郊外型は本物志向の料理をモットーとし、絞り込んだ商圏で家族層や仲間層をターゲットとしている。そこには居酒屋特有の“うさ晴らし”的な雰囲気は薄く、アルコールはオマケのような存在でしかない。

例えば、東京都大田区の住宅付近で展開する「八百八町」という居酒屋がある。客層のほとんどはＰＴＡや趣味の会合、または家族層で占める。週末は予約で一杯。七〇坪一三五席、この店舗で月商一五〇〇万円を挙げる盛況ぶりだ。神奈川県茅ヶ崎市の郊外で展開する「えぼし」も同様。住宅地にもかかわらず、九五坪、一五〇席の店舗で月商四〇〇〇万円を上げる。双方に通じるのは、徹底した手作りと、郊外による物件の安さをすべて原価に反映させ品質の高い料理を提供することだ。

なぜ、これほど郊外型が流行しているのか。もと「つぼ八」の創始者で、現在自ら郊外型の居酒屋「八百八町」を手掛ける石井誠二社長はこう語る。「いままでの居酒屋は高度経済成長を支えた会社一辺倒のサラリーマンのやすらぎの場であり、そのほとんどは会社や仕事場を拠点に展開された。だが最近は会社にすべてをささげるようなサラリーマンは減り、自分や家族のためにと“プライベート”を重視する風潮にある。プライベートとは家庭や地元です。つまりそれらを拠点とする居酒屋が求められる時代になったのです」と、サラリーマンの意識変化を要因に挙げる。

こうした状況を一早くにらみ、郊外にも積極的に展開する（株）大庄グループの大内靖夫取締役はこう分析する。「残業や交際費の削減で、サラリーマンが飲む機会も減った。塾通いの子供やパート勤めの主婦が増えて、一家団らんの食卓や手作りも減っている。そのような家族がたまに外食するとなれば、アルコールと手作り料理は不可欠、また近隣の店舗であることが条件。郊外型の居酒屋は、これらをすべて満たせる。ＦＲ（ファミリーレストラン）が飽きられているのも要因」。家庭内の生活様式の変化が、郊外型ニーズの背景にあると指摘する。

同グループの展開する「庄や」が“居酒屋”ではなく“居食屋”を名乗るのもそうした変化を先取りしているためだ。

サラリーマンの意識や家庭の生活様式が変わり、居酒屋の捉えられ方も変化し始めたいま、郊外型の居酒屋が注目に値する。その取り組みを取材した。

（２、９～１３面に関連記事）