特集・デリバリーピザ トップインタビュー フォーシーズ・浅野秀則代表取締役

1995.06.30 79号 3面

‐‐最近のデリバリーピザ業態で突出した動向は‐‐。

浅野 オリジナル商品の開発力を持つチェーンと、物まねに過ぎないチェーンの二極化が進んでいる。展開コンセプトの明確な前者はリピーターを着実につかみ伸びている。同業他社の動向にも無関心のようだ。

‐‐弁当などとの複合店も増えているが。

浅野 物マネのチェーンにそういう傾向が多い。各社の戦略はともあれ、「ピザーラ」が複合化を手掛けることはない。複合店はメニューの選択幅が広がるメリットはあるが、ピザという店舗のアイデンティティを曇らせる両刃の剣。せっかく築いた専門店のイメージを自ら壊す必要はない。アルバイト依存率が九割を占める現状で数多いメニューをこなせば、作業マニュアルにも支障を来たす恐れがある。つまり出前を特化したはずのデリバリーコンセプトさえも失いかねない。複合化するならば別の(複合しようとする)デリバリーを単一で立ち上げた方が良いのでは‐‐。いずれにせよ複合化の波が押し寄せているのは事実。良し悪しは別として今後は既存のデリバリーコンセプトに基づいた専門店筋と出前色の濃い大衆食堂筋、二つの潮流が出来ると思う。

‐‐出店動向については。

浅野 首都圏では市場のパイに準じた出店はほぼ完了しており、飽和状態だ。最近はユーザーの舌も研ぎ澄まされており、T・P・Oに合わせてそれぞれの店を選別する傾向にある。ブランドの威を借りた独占展開や安易な出店は難しい。生き残りや新規出店にはより明確な展開コンセプトが必要。新たに出店すれば下位の店舗が脱落する。入れ替えの時期に差しかかっている。地方についてはまだまだ出店の余地がある。だが地方出店はピザの需要を喚起させる戦略にウエートを置かなければならない。

‐‐消費者ニーズについては。

浅野 ライト感覚のピザの需要が高まっている。例えば米国でも急成長しているデザイナーズピザのようにフレッシュ(生野菜のまま)主体のサラダ感覚のもの。「ピザーラ」のテストマーケティングではオーダー構成比の一割を占めた。ピザの認知度が増すと同時にユーザーニーズも多様化している。デザイナーズピザの流行も間もなく始まるのでは。

‐‐今後展開するのですか。

浅野 フレッシュのままの素材比率が高まるので細菌が発生し易く衛生上に問題がある。一~二店舗ならば衛生管理を徹底出来るが数百店舗の大所帯、しかもアルバイト依存率の高い現状では難しい。やりたいけれども出来ないジレンマを抱えている。だからデザイナーズピザはこのほど出店したイートインピザ専門店の「トゥー、ザ・ハーブス」で本格的に展開する。

‐‐業態の大手、中小の格差が開いていますが、徹底して目の行き届く中小チェーンではデザイナーズピザがメニュー開発のヒントになりますか。

浅野 その可能性もある。小回りの効くこと、徹底して末端を管理できることは衛生管理のほかにもメリットがたくさんある。ピザのメニューは無限だから商品開発を行う柔軟性、楽しさにおいて中小は大手をはるかにしのぐ。チェーン規模の特性を生かし大手にまね出来ないアイデアを打ち出せる中小チェーンが伸びるだろう。

‐‐DS(ディスカウント)については。

浅野 一部のチェーンで見られるが、行く末は出前化するのでは。デリバリーピザの展開は固定コストが決定しているため、安直な値上げは即、食材の低下に結びつく。「ピザーラ」は価格よりも品質を追求するのでDSする気は皆無。スケールメリットなどの利益はすべて素材の選択に還元させる。ユーザーニーズは根本的に価格より品質。現状価格に見合う以上の品質を提供していれば価格を引き下げなくても、ユーザーを獲得できる。だが最近の低価格志向の強まりは否定できない。

対策としてはプレゼント、キャンペーン、サイドメニューなどの付加価値戦略に本腰を入れて割安感を打ち出す。とくにそれらのPB(プライベートブランド)には改良を加え、オマケ的な既存イメージを払拭、個々の充実を図る。

‐‐今後の「ピザーラ」の展開予定は‐‐。

浅野 平成6年度決算は対前年比六六・八%増、既存店ベースでも一〇%増で着地した。品質第一とする既存の戦略が正しかったと受けとめ、これをベースにさらに出店を加速させる。来年の2月までに四〇〇店舗、さ来年の2月までに五〇〇店舗を達成する予定です。新卒者が多く入社したので直営展開、PSSシステム出店(取材メモ参照)に力を入れる。また、「ピザーラ」はNB(ナショナルブランド)を目指しているので、地方出店率をいまの二〇%から三〇%に高める。

‐‐ピザを啓蒙した全国ネットのCMの先行投資が試されるところか。

浅野 そう思う。出店していない地域の方にも「ピザーラ」の潜在意識を与えたはず。

‐‐「ピザーラ」のCM効果に便乗してうるおった地方の他先発チェーンも多いが。

浅野 他チェーンがうるおえば、それはそれでピザの認知度、需要が増していると捉えるべき。「ピザーラ」がそこへ出店すれば、お互いの競争が始まり、業態のさらなる活性化が生まれる。品質、サービスの向上はもとより、ヘビーユーザーの出現も早まるし、ピザ市場のパイを広げる好機だと見ている。

‐‐デリバリーピザの課題は。

浅野 当面はバイクの安全運転、管理面が業態全体で取り組むべき最重要課題。デリバリーピザ店ではアルバイト依存率が高く、しかもそれらは免許取り立てで運転に未熟な若年層が多い。業態規模が広がるのは良いが、それだけ事故の確率が増えるわけで、未然に防ぐための安全マニュアルの作成、教育が急務だ。このほど設立された宅配ピザ等安全運転管理協議会で業態の横のつながりを持って対応して行く。

‐‐業態の今後をどのようにお考えですか。

浅野 ユーザーニーズはコンビニエンス性が強まっている。したがってデリバリー市場はますます拡大する。今後はさらに個食傾向が強まり、そのユーザーニーズもさらに細分化すると見ている。売り物である商品にどれだけオリジナリティーを出せるかが重要となる。

‐‐イミテーションで過ごしてきたいままでから一皮むけた本格的なデリバリー時代の到来ですね。

浅野 そう見ている。

‐‐ありがとうございました。

昭和28年生まれ。慶應義塾大商学部卒。事業意欲旺盛で学生時代から旅行代理業務などさまざまな事業を手掛ける。昭和62年「ピザーラ」をオープン。若者に事業の楽しさ、夢を分け与えるべく、PSS(ピザーラ・サクセス・システム)制度を導入。社員に別会社を設立させるその制度は、軌道に乗った「ピザーラ」の店舗を譲り渡すもの。同社の社員でいながら「ピザーラ」店舗の社長であるダブルインカムシステムで“やる気”“責任感”を促している。

「日本という国は“やる気”や“夢”には投資しない。自分の時も担保、保証人で苦労した。だから自分が成功したらやる気のある人に何とかチャンスを与えてあげたいという気持ちが強くあった」。いまでも選定の前提は“やる気”だといってはばからない。「万が一失敗したら本部がすべてフォローする」とオーナーとしての責任感は強い。

“やる気”と“夢”がモットーの同社には、昨年四〇〇〇人もの新卒入社希望者が集まったという。九年目にして三一一店舗、年商二一八億円を達成。CMの“ピザーラお届け”のキャチフレーズは、展開していない地域でも知らぬ者はいないほど(一本あたりのCM料は約四〇万円とか)。ますます波に乗る「ピザーラ」のトップは意気軒高。(文責・岡安)

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