消長激しいハンバーガー市場 30社がチェーン化に失敗
日本におけるハンバーガー市場の形成は、マクドナルドが一九七二年(昭和47年)7月、東京・銀座に直営一号店を開設したときに始まる。ただ、この前後の時期にやはりチェーン化を目指していた企業があったのも事実だ。ウィンピー、バーガーシェフ、A&W、ハーディーズ(以上外資系)、明治サンテオレ、ドムドム、プリマハムなどである。しかし、これらのうちチェーン化できたのは二社ほど、あとは消滅か、それに近い状態となっている。
この業界には、八四~八五年にもう一度参入ブームがある。このときは「一〇〇円バーガー」チェーンが五社も登場した。しかし、これらのチェーンである程度の規模に成長できたのは一社のみである。小型店で低投資、子供が主要顧客というコンセプトだが、しょせんスキ間市場を形成するだけであった。
七〇年代からこれまで、およそ四〇社以上の企業がハンバーガーやそれに類するサンドイッチのチェーン化に取り組んできた。しかし、それらのうち現在も活発な営業活動を行っているのは一〇社あまりに過ぎない。残り三〇社ほどはチェーン展開に失敗した。そうした中で、その後大きく成長できたのはマクドナルド、モスバーガー、ロッテリアの三社だ。
ハンバーガー市場は九二年あたりから安定成長期に入ってきたものと推測できる。日本マクドナルドは今年を「強襲の年」と位置づけ、競合他社のシェアを奪うことを目標に掲げた。その犠牲になるのは中小チェーンであることは明らか。大手三社のシェアは現在八三%だが、今後、この上位集中傾向はますます強まろう。
マクドナルドの強さは、米国で培われたノウハウ、つまり日本の企業では誰も持っていないノウハウを基に、当時未開だったハンバーガーという市場を開拓したところにある。いわば開拓者の利得を一手に獲得してきたといえる。また積極的に再投資を繰り返し、直営店の拡大に力を集中してきた。現在でもマクドナルドの店舗のうち八割は直営店。その拡大至上主義によってシェアを握ってきたのである。
初期のころ、マクドナルドを急追していたのはロッテリアチェーン。ただし、ロッテリアは九〇年あたりから成長は止まり、九三年からはマイナス成長に向かっている。
これと対照的なのはモスバーガーだ。同チェーンは創業以来二二年間、前年対比二ケタ以上の成長を遂げてきたのである。九一年にはロッテリアを追い抜き、第二位のチェーンに成長した。
モスバーガーの成長要因は、独自の商品と独特の運営方針にある。ロッテリア、森永ラブ、ファーストキッチン、明治サンテオレなどあまたあるハンバーガーチェーンは、商品上の特性はマクドナルドと同系統に属する。つまり洋風の味だ。これに対してモスバーガーは、たれをたっぷり使った和風味が基調。そのため調理もオーダーを受けてから始める。いわゆる“クック・ツー・オーダー”方式を採った。たれが多いために、作りおきができないからである。これが根強いファンを形成した。
マクドナルドは八七年初頭から二年半もの間、断続的にディスカウント戦略を実施した。マクドナルドと同列系統の商品を出しているチェーンは、対抗上やはりディスカウントせざるを得なかった。そのため、それらのチェーンは利益を大幅に削らざるを得ず、消耗戦を強いられたのである。そのツケが次の段階の成長力を奪い、マクドナルドに有利な状況をもたらすことになる。しかし、モスバーガーはこの消耗戦に巻き込まれもしなかった。しっかりとしたファンをつかんでおり、ディスカウント戦略を採る必要がなかったからである。
一方、独特の運営方針というのは、加盟者の採用時において厳しい選考基準があること。つまり“やる気”のある人、そして本部と同じ価値観を持った人だけを採用したのである。もう一つは、チェーンの運営面において加盟者の参加を積極的に推し進めていること。これらが相挨って、消費者へのイメージが高いレベルで維持され、着実な成長をもたらしたのである。トップ企業に対して高い成長を得るには、トップ企業と同じことをやっていてはダメだ、という典型的なケースといえよう。