東南アジアでペットフード需要急増 コロナ禍が追い風に
新型コロナウイルスの感染拡大で外出を控える消費者が増える中、自宅でペットと触れ合ったり、新たに飼育したりする人がタイやベトナムなど東南アジア諸国で増えている。こうした国々ではウイルスの抑制に成功し、半年以上もまとまった発症例は起こっていないものの、いったん始まったペットとの生活は日常の暮らしとして定着するまでとなった。
これに伴いペットフードの需要が急増しているのだといい、業界では工場を増設するなど増産の動きが起こっている。コロナがもたらした思わぬ需要をつかもうと投資にも積極的だ。
タイ・バンコクでマンションの一室に暮らすマイさん(32)は9月から猫を飼いだした。コロナ禍以前は仕事後に同僚と決まって繰り出し、おしゃれなカフェやレストランをハシゴしていたが、その習慣もすっかりなくなった。自宅にいる時間が増えて手持ち無沙汰になったことで、以前から関心のあった猫の飼育を始めたのだ。
排せつセットや寝床など一通りの猫グッズは揃えたが、毎日与える食事が何よりの関心の的。飼い始めたころは固形のドライタイプのペットフードを与えていたが、ウエットタイプのほうが喜んでくれることを知り、インターネットで調べては注文するのが日課に。「いろいろな種類があって栄養分などの記載もある。次はこれを頼んでみようかな」とツボにはまったかのようだ。
こうした市場動向を受けて食品世界最大手のネスレ(本部スイス)では、タイ東部ラヨーン県のアマタシティー・ラヨーン工業団地内にあるペットフード生産工場の増設を決定。約25億バーツ(約85億円)を投じる計画だ。来年半ばにも稼働させる予定でいる。
冷凍海産物を主力としてきたタイのアジアン・シー・コーポレーションでも、新型コロナの影響で冷凍品の売れ行きが伸び悩んだところ、代わってペットフードなどの売上げが急伸。今年半ばには前年比40%増と高い伸びを見せて、年間売上高でも昨年実績を超えるのは確実だ。このため、新たにペットフードの生産ラインを新設することに決めた。約2億バーツを投入して来年半ばにも稼働させる計画だ。
タイ水産最大手のタイ・ユニオン・グループでも、ペットフードなど付加価値製品の売上げが2桁を超える高い伸びを見せ、増収に大きく貢献した。利益率でも主力の水産缶詰事業などを抜いて最高を記録。缶詰、冷凍冷蔵品に次ぐ三つめの柱として成長させていく方針だ。
こうした傾向は、同様にウイルスを制御下に置いているベトナムでも顕著となっている。高い経済発展が続くベトナムでは、ハノイやホーチミンなどの都市部を中心に自宅でペットを飼う人が増え、このコロナ禍の巣ごもりで一段と増加した。
愛玩動物というより、核家族化に伴う家族の一員という位置付けが多く、ペットフードもより質と安全の高いものを求める傾向が強まっている。このためペット関連産業が盛んとなり、国の内外から多くの企業が参入を目指している。業界関係者の試算によると、ベトナムでペットを飼う人は現在約800万人。来年は1000万人を超えるものとみられている。
世界のペットフード市場は欧米などでも堅調で、今年の世界市場の規模は960億米ドル(約10兆円)ほどとみられている(ネスレ社による試算)。来年は1桁上がって大台を突破。5年後には、1200億ドルに達する見通しだ。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)